著者のコラム一覧
本郷和人歴史学者

東大卒。藤田医科大学特命教授・同大学リベラルアーツセンター長、元東京大学史料編纂所教授。近著に「インテリジェンス関ヶ原」(文芸新書)。

宮本武蔵(1)吉川英治の小説は史実とはかなり違う

公開日: 更新日:

 歴史上の人物で「大スター」といえば、坂本龍馬や織田信長の名が真っ先に挙がるでしょう。

 信長はよくわかります。彼が出現したからこそ、長く続いた戦国乱世は終わりを迎え、平和な江戸時代がやってきたのですから。でも、龍馬は違います。日本史の教科書に載るかどうか、の瀬戸際にいる人。つまり、歴史の史実というより、物語世界での英雄なのです。彼を世に送り出したのは、言うまでもなく司馬遼太郎です。そして、司馬先生が龍馬を生み出す以前、その地位にいたのは宮本武蔵でした。

 武蔵の人気を決定づけたのは、吉川英治の小説「宮本武蔵」です。剣の道をひたすら追い求める孤高の剣豪。多くの人がこの武蔵像に魅了されました。しかし、吉川先生ご本人が認めているように、この作品は、史実を忠実に再現したものではありません。あくまでも小説、フィクションであり、そこには大胆な創作が含まれています。

 その代表が佐々木小次郎でしょう。吉川版の小次郎は美青年として描かれていますが、江戸時代の史料をたどると、そのような人物像は見えてきません。むしろ武蔵よりかなり年長だった可能性すらあります。巌流島の決闘図などを見ると、現代人が抱くイメージとはずいぶん異なる姿に驚かされます。

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