東ドイツの在りし日の姿を伝える「もはやない国のかつてない光 東ドイツの女性写真家たち」キャンディス・M・ヘムリン、三本松倫代執筆
「もはやない国のかつてない光 東ドイツの女性写真家たち」キャンディス・M・ヘムリン、三本松倫代執筆
1989年のベルリンの壁崩壊を機に進んだ東欧革命の結果、90年秋、国家としての東ドイツは消滅した。本書は、統一以前に同国で活動していた女性写真家15人の東ドイツ時代の作品を編んだ写真集。
社会主義体制下の東ドイツでは、写真は「国家の表象装置として不可欠であり、復興と産業の発展、社会主義の成功の日常を記録する役割」を担っていた。そのため、文学や絵画、映画ほど厳しい制約を受けることはなかったという。
同時代を生きた15人の作品は、世代も作風もテーマもそれぞれ異なるが、各自が表現の可能性を探りながら、東ドイツでの生活を独自のまなざしでとらえている。
作品は30年生まれのエフェリン・リヒター(2021年没)を筆頭にそれぞれの生年順に並ぶ。
50年代、社会主義リアリズムの規範に従うことを拒否して美術大学を退学処分となったリヒターが撮影した女性工場労働者の写真は、公認写真が表現する英雄的な生産性とは一線を画し、工場労働者のリアルな日常を捉えている。
表紙の写真は、社会主義体制の崩壊時によく見る銅像を倒しているシーンにも見える。しかし、撮影されたのはまだ社会主義体制下にあった時代だ。
ジビレ・ベルゲマン(41年生まれ)が撮影したこの写真は、銅像が出来上がり、設置される場面。
ベルゲマンは「記念碑」と題したシリーズで、バルト海に浮かぶウーゼドム島の小さな村にあった彫刻家のアトリエでこの「マルクス・エンゲルス記念碑」(写真は「エンゲルス像」)が完成するまでの制作過程を記録。
独学で写真を学んだ彼女の作品にはこのシリーズとは一転して、公園と思われる場所で手をつないで走る若い女性の2人組(写真①)や、ブランコを限界の高さまでこいでいる女性の写真などもある。
それはまるで抑圧された日常からの逃走のようにも見えるのはうがちすぎだろうか。
47年生まれのエーファ・マーンは、損壊した建物や廃虚などにレンズを向ける一方、入念に構成されたセッティングで中性的な人体を撮影する。
その中の一枚は、セルフポートレートと思われるが、ハイヒールだけを身に着けポーズをとる全裸の女性の一部だけが画面の左端に写り込み、その全体像は背後の白い壁にシルエットになって写り込むというアートな一枚だ。
他にも、体制に反抗するかのように過激なファッションを貫くパンクたちを撮影するクリスティアーネ・アイスラー(58年生まれ)や、当時の一般的な家庭空間を撮影してその日常をうかがわせるマーギット・エムリッヒ(49年生まれ)、セルフポートレートを通じて「行為としての見ること・フレーミングすること・記録すること」を考察するティーナ・バーラ(62年生まれ)の作品など。
かつて存在した東ドイツという国家と、その時代を生きた人々を記録した貴重な一冊。 (HeHe 4180円)



















