ジュニアアマ出身の草分け・木村敏美プロは「三刀流」をこなしツアー通算10勝

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木村敏美プロ(53歳)

 女子ツアーは稲見萌寧古江彩佳西村優菜らジュニアアマ出身のプロが活躍するが、その草分け的な存在が木村敏美プロ(53)だ。18歳でプロデビューし、ほぼ同じ頃から犬のブリーダー事業に乗り出し、“ママさんゴルファー”10勝という「三刀流」のキャリアを持つ。

■「プロゴルファー」「ママ」「ブリーダー」

 木村が代表を務めるブリーダー会社兼店舗の「BLACK DOG LLC.」にはドッグショーのチャンピオン犬数頭を含む自慢の約50頭がいて、「賢くておとなしい犬種」と人気のミニチュアシュナウザーとゴールデンレトリバーの2種を大事に育てる。プロデビューから間もない1990年代初めに店舗をオープンしてから、すでに開業30年を超えた。

「もともと犬が好きで、ゴルフよりも犬関係の仕事がしたかったんです。ゴルフという職業はケガをしたら終わっちゃう。デビューした時からプロ人生の後を考え、将来的に何かしなければと思っていました。それならば、自分の好きなことをしようと同時進行でブリーダーもやってきました」

 レギュラー時代は大きなケガもなく、2013年までの26年間で714試合出場は歴代五指に入る。

 それでも、「職業病で体の右半身は頭の上から、つま先までガタガタになり、4年前には首の手術もしました」と明かす。

 ツアーで活躍していた時は全国転戦で忙しく、そのいっぽうブリーダー業は繁殖・育成・販売のサイクルが早く15頭前後で運営していた。40歳を過ぎてツアー競技から離れ始めてから本腰を入れた。現在は従業員6人とともに50頭前後を大切に世話をしている。

「かわいい犬が好きなんです。基本はストレスをかけないように育てること。うちのミニチュアシュナウザー犬は世界的に有名なんですよ。海外にも渡っています。うちの血統ラインの犬は、なかなかほかでは育てることができないみたい」と胸を張る。

 ツアー9勝目の04年「新キャタピラー三菱レディス」(神奈川・大箱根CC)では、「3年がかりで副賞の油圧ショベルカー『ユンボ』を取りにいきました(笑い)」と振り返る。

 ユンボは今春まで17年間、ブリーダー施設内でフル稼働してきた。

 現在は今年6月に改正されたブリーダーによる運動場などの改造や従業員の雇用体制の見直し、年度末決算や来年6月に施行予定の犬の個体別マイクロチップ装着義務への対応に追われている。

 ゴルフのトッププロと犬のトップブリーダーを両立させた木村。忘れてならないのは自身の出産・育児経歴だ。

26年間714試合出場記録を支えたハングリー精神

 木村は小4でゴルフを始め、中学時代は数々のジュニア記録を更新して頭角を現し、東京・堀越高に進学。2年生の時に同学年の服部道子、1学年上の橋本愛子を破り全国高校大会制覇。日本ゴルフ協会ナショナルチームの初代中心メンバーだった。

あの当時は自分でいうのもなんですが、天才かなと思いましたもの。エリート中のエリートだったですね(笑い)」

 高校を卒業して半年後の1987年10月にプロテスト合格。同11月1日に18歳362日で日本女子プロゴルフ協会に入会した(56期生)。

「道っちゃん(服部道子)は海外に留学するなど、同世代のみんなは大学へ進みましたが、私は早くプロになりました」

 今や一流プロへの登竜門ともいえる、エリート路線の草分けだった。

 プロ入り直後に、将来を見据えて犬のブリーダー業に着手。そしてプロ4年目の90年にシード選手となり、結婚、出産へとママさんゴルファーの道を切り開いていった。

 22歳だった91年に長女あずささん(30歳)を出産。翌92年からツアー復帰してすぐに賞金シードを復活させた。

 今年7月の「GMOインターネット・レディース サマンサタバサグローバルカップ」で若林舞衣子が第1子出産後の優勝を果たした際に、木村以来14年ぶり6人目の「ママさんゴルファーV」という記録が報じられた。

 木村が挙げた10勝はすべて「ママさんゴルファーV」だ。パーオン率やバーディー数の高さが示す「ショットメーカー」として知られ、ツアー屈指の難コースで勝ち星を重ねた。

 93年「三越カップ」(茨城・セゴビアGC)で高須愛子とのプレーオフを制した初優勝の時、1歳の長女は実家に預けていた。

 この年は3勝を挙げ、94年にも1勝を加え、海外メジャー出場(予選突破)を挟んだ連戦スケジュールもこなした。

「若かったですからね」

■出産後1カ月でのトーナメント復帰戦は29位

 94年シーズンをフル参戦後、翌95年に長男・翔さん(26歳)を出産。驚くべきは1カ月後に赤ちゃんの初健診を受け、その翌日に那須小川レディス会場(栃木)へ向かった。出産後1カ月でのトーナメント復帰戦は29位の成績を残した。

「体調は大丈夫だったんですよ」とあっけらかん。この年は離婚も経験した。

 96年「東ハトレディス」(千葉・オークビレッヂGC)でのツアー5勝目は長男出産後の初V。

■2人の子育てに必死

 そして07年「アコーディア・レディス」(宮崎・青島GC)まで“タフネス・ママさん”は通算10勝を挙げた。

 トッププロとして実働26年間、レギュラーツアー714試合をこなせた要因を尋ねると──。

「ハングリー精神ですよ。うちは生活がかかっているんです。子供2人を育てなければならない。それに毎年毎年、税金払うために仕事をしているようなもんでした。途中からは『これはヤバい』ってゴルフをしていましたよ(笑い)」

後輩ママさんプロへのメッセージ

 長女が子供2人の母親になり、木村は孫2人に恵まれた若い祖母になった。幼年時からの子育ての苦労を聞くと──。

「ツアー中の子育ては実母に頼りました。親がそばにいなくても勝手に育ちますよ。おかげですくすく育ちましたよ(笑い)」

 成長するにつれ、母親が試合会場や犬舎で働く姿に、子供たちは胸を熱くしていた。

「子供は私のことを尊敬なんかしてませんよ。いまだに文句ばっかり言ってますよ(笑い)」

 2004年「新キャタピラー三菱レディース」(神奈川・大箱根CC)では夏休み中だった子供2人が会場で応援。優勝副賞の油圧ショベルカー獲得を喜び合った。

「息子には小学生時代に私のバッグを担がせたことがあるんです」

 長男・翔さん(26)は現在、プロキャディーとして女子ツアーに帯同している。

 来季の国内女子ツアーでは横峯さくら(36)が、木村や若林舞衣子に続く「ママさんゴルファーV」を目指すほか、結婚や出産後も現役生活を志す女子プロ選手が増えている。

 後輩ママさんプロへのメッセージがある。

■子供一番、ゴルフ二番の約束

「ママさんゴルファーで頑張ってほしいというのは確かにありますが、でもゴルフは子供の後に位置付けてほしい。子供優先で、子供に何かあった場合には、たとえ優勝争いしていたとしても、母として子供の元に戻ってほしい。私はいつもそう思ってプレーした。それを忘れちゃうと、ゴルファー失格、母親失格、人間として失格じゃないかと私は思います」

 木村は28歳で日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)の最年少理事になった。すでに2児の母であり、米女子ツアーの試合会場では当たり前の託児所設置を提案した。だが、当時は子供を持つ選手が少なすぎて実現には至らなかった。

「最近は若い子が増えてきて、結婚、出産、ゴルフという環境をLPGAも整えていかなければと思います」

 犬のブリーダー会社の「BLACK DOG LLC.」代表として、「もうゴルフをやらなきゃいけない境遇ではないし、ここ2年間はコースにも出ていなかった」と明かすが、関係者の誘いを受けて12月1、2日の2日間「のじぎくオープン」(兵庫・有馬ロイヤルGC)に遠征出場、男女プロアマ(ハンディキャップ制)を通じ37位フィニッシュ。

「初日は風も強かったし、スティンプメーター12フィートの超高速グリーンに対応できず、朝から3連続3パットなど5オーバー。2日目は1オーバーでした」と久しぶりのプレーの感想を語ってくれた。

 コロナ禍前にはレジェンズツアーらの女子シニア仲間20人に声掛けして、プロアマ大会「夢見るツアー」の旗振り役を務めた。大会はレジェンズのプロたちが参加アマチュアをもてなす形式で毎年、場所を変えながら開催。

「同組プレーはもちろん、空港での出迎えや表彰式での音響演出などをプロが全部やります。これが楽しい! 来年9月ごろに復活させようかと思っています」

 木村のマルチタレントぶりに磨きがかかっている。

(構成=フリーライター・三上元泰)

▽木村敏美(きむら・としみ)1968年生まれ、東京都出身。小4からゴルフを始め、堀越高2年時には同学年の服部道子、1学年上の橋本愛子を破り全国大会制覇。87年秋のプロテスト一発合格。結婚・出産を経た93年「三越カップ」で初優勝。第2子出産後も含めツアー通算10勝を“ママさんゴルファー”として達成。犬のブリーダー会社「BLACK DOG LLC.」(埼玉=℡042-985-9272)を運営。身長165センチ。

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