「ヘンリー・ダーガー非現実を生きる」小出由紀子編著
■孤独な老人が60年をかけて構築した幻想の「王国」
1973年、シカゴの病院で雑役夫として働き続けてきた天涯孤独の老人が81歳でこの世に別れを告げた。彼が暮らしたわずか20平方メートルの小さな部屋には、トラック2台分のごみとともにトランクの中に詰められた1万5000ページを超える長大な小説と、その物語を図解する巨大な画集が残されていた。
その作品に芸術的価値を見いだした大家の努力によって、死後20年を経た90年代に世界で認知され注目されるようになったその人ヘンリー・ダーガー(1892年生まれ)と彼の作品世界を紹介するアートブック。
幼くして母を亡くし、孤児院や障害者の養護施設で育った彼が誰に読ませるわけでもなく、こつこつと60年かけて書き上げた小説は「非現実の王国として知られる地における、ヴィヴィアン・ガールズの物語 子供奴隷の反乱に起因するグランデコ―アンジェリニアン戦争の嵐の物語」という。そこに描かれているのは、悪魔を信奉し、子供を奴隷にして虐待するグランデリニア国と、子供奴隷制度の廃止を求めるキリスト教の国々との間で繰り広げられた戦争の歴史だ。