著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

開風社 待賢ブックセンター(京都・西陣)「近所の人がふらっと来て思いがけず手に取る。そうした『偶然』にハマる本を意識しています」

公開日: 更新日:

 かつて機織りの音が聞こえたであろう西陣の地。古い町家の一軒が少し賑やかだ。入り口に白い暖簾がかかり、「ku:nel」や「ケトル」などの雑誌が並んでいる。ガラス窓から、中にいろいろ詰まっていそうだとうかがえる。

 こんにちはー。出てきてくれた店主・鳥居貴彦さんが「お久しぶりです」と。チェーンの書店勤務を経て、10年ほど前はミシマ社の営業スタッフだった方なのだ。

 土間と畳の間(ま)の空間に、本がわさわさと。オープンして7年になる。渋い!

「マンションより“地べた”がいいなと、ミシマ社勤務時代から借りて家族で住んでいる家です」

 店名の「待賢(たいけん)」は、このあたりに、御所の東の入り口「待賢門」があったことに由来するそうだ。しか~し、「ここで本屋する」に、ご近所さんたちは驚いたのでは?

「いや。町内会の集まりのときに伝えると、『ああそう』って感じでした」

 なぜなら、すぐ近くに50年前から、蔵を改造したライブハウス「拾得(じっとく)」がある。「昔はあそこから裸で出てくる人がよういはったね」と町内の老人。侵入者を面白がってくれる(?)町のよう。

西陣の古い町屋に新刊・古本約2000冊

 店内に、約2000冊。新刊と古本が混在する。右手に「面倒だけど、幸せになってみようか」「ひとりだから楽しい仕事」が面陳列。話題になっている韓国語翻訳者さんの本だなー。あ、「手づくり雑誌の創造術」を見つけた。1980年代に、伏見で私塾「みみずの学校」を主宰した高橋幸子さんの本だ。おっ、日文研の磯前順一先生の「京都 祈りと差別の千二百年」もあるー。

 と次々と手に取り、勝手にシンパシーを感じる。そして、左手方向の棚を見上げると、沖縄関係の本がずらり。

「妻が沖縄出身なので、僕もわりに行くようになって……」

 選書に「明確なテーマは設けていない」と鳥居さん。基準は「ここで売れる本」だという。ベストセラーとは違う、近所の人がふらっと来て、思いがけず手に取る。そうした「偶然」にハマる本を意識しているそう。素晴らしい。

「店にいると、知らんお客さんが、知らん本のことを語ってくれたり、予期せぬことが起きるんです」と鳥居さん。

 古本が増えてきたのも、ご近所からの買い取りリクエストから。「家一軒分」という単位で片付けを頼まれることも少なくないという話を縷々(るる)教えてくれた。「(次の読み手がないものに関して)本の終わりを決めてあげるのも、本屋の仕事やと思っています」との言葉も印象に残りまくった。

 取り寄せ本の依頼も多く、もはや、このエリアに、なくてはならない場所になっている。

◆京都市上京区大宮通椹木町上る菱屋町818/℡080-3166-1385/京都市営地下鉄丸太町駅から徒歩15分または市バス堀川丸太町停留所から徒歩4分/午前11時~午後7時、日・月曜休み

ウチの推し本

「ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集」斉藤倫著、高野文子画

「開店間もない頃に出合い、『ウチもこういうところになりたいな』と思いました。以来、常備し、ウチのベストセラーになっています。“おじさん″が家にいると、小学生くらいの男の子が訪ねてくる。学校であったいいことや嫌なことをしゃべる。すると、その子の言ったことに対して、『こういう、やさしい言葉を持った詩人がいてね……』とおじさん。詩を紹介し、言葉と詩の楽しさなどへと話が続くんです」

 自分で読むなら、小学3、4年~。

(福音館書店 1430円)

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