「しらずの駅舎」日本建築写真家協会編

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「しらずの駅舎」日本建築写真家協会編

 日々の通学や通勤、そしてあるときは出会いや別れの舞台にもなる駅は、多くの人にとってなじみ深い場所であるとともに、忘れられない思い出を呼び起こす場所でもある。

 本書は、日本建築写真家協会に所属する会員たちが、鉄道草創期から昭和中期にかけて建設された全国の歴史ある駅舎を撮影した写真からえりすぐりを集めた作品集。

 作品は、跨線橋から海が一望できる北海道の森駅(JR函館本線)や、青森県の驫木駅(同五能線)など、北から列島を南下するように並べられ、まるで鉄道で日本中を旅しているかのような気分にさせてくれる。

 どの駅も魅力的なのだが、必ず降りてみたいと思わせるのは、福島県の湯野上温泉駅(会津鉄道)だ。茅葺の駅舎の屋根が乗客を守るようにホームの乗降口まで延び、その柱に取り付けられた駅名が書き込まれた行灯看板も、ほかではお目にかかれない風情をつくり出し、日本の原風景のような光景だ。

 駅を巡る旅はやがて関東に入り、千葉県の小湊鉄道の上総鶴舞駅や月崎駅、群馬県のわたらせ渓谷鉄道の神戸駅など、ひなびた駅舎に続き、突然、東京駅が現れ、その威容に度肝を抜かれる。

 見慣れているはずの東京駅も、モノクロの夜景の中で周囲のビル群と競演するさまは、ここまでの地方の駅とのギャップと相まって、その建物としての美しさが一層引き立つ。

 スクラップ&ビルドが進む東京にも、関東初の百貨店併設の駅ビルとして開業した東武鉄道の浅草駅や、JR中央線の高架化で解体されたものの市民の希望で元の場所近くに往時のまま再築され公共施設に生まれ変わった旧国立駅など、歴史ある駅舎はまだまだ多い。

 建築写真家の作品だけに、ホームの屋根を支える幾何学的な鉄骨の梁の美しさに注目した作品(新潟県えちごトキめき鉄道二本木駅)や、昔ながらのガラス窓を通して駅の待合室に降り注ぐ陽光がつくり出す美しい陰影をとらえた作品(長野県JR中央本線贄川駅)、さらに古い駅舎の使い込まれた木の柵や手すりなど、建物のディテールにレンズを向けた作品も多く、写真家の目を通して、いつもとは違う駅の表情を見つめることができる。

 約9000ある国内の駅の半分以上が無人駅となっているそうで、収録された駅の多くも無人駅だ。

 しかし、どの駅もチリひとつ落ちておらず、美しく保たれている。撮影のためもあるだろうが、多くの駅の写真に人影はなく、まるで時間が止まってしまったかのよう。

 そんな中、岡山県のJR因美線、美作滝尾駅では、通勤通学の利用者だろうか、農道やあぜ道を利用して駅の裏側から三々五々汽車の時刻に合わせて人が集まってきており、その田園風景と相まって、まるで映画のワンシーンのようだ。

 以降長崎県のJR大村線千綿駅まで、日本列島を縦断。これまで知らなかった駅も多く、読者を旅情にいざなう。

(鹿島出版会 3300円)

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