「遊女の中世史 遊廓はいかに生まれたのか」辻浩和著

公開日: 更新日:

「遊女の中世史 遊廓はいかに生まれたのか」辻浩和著

 遊びをせんとや生れけむ/戯れせんとや生れけむ/遊ぶ子供の声聞けば/我が身さへこそゆるがるれ──「梁塵秘抄」の有名な歌だ。この歌は、罪業深い生活を送っている遊女が自らの哀れな境遇に対して身をゆるがす悔恨を歌ったものとの解釈をされることもあった。これは遊女=人々から蔑まれる存在というイメージから来ているものだ。しかし本書によれば、そういうイメージは近世以降のもので、それ以前の中世期の遊女のありさまはかなり違ったものだという。

 その主な違いは3つ。

①近世:遊女は不特定多数の男性と性交渉を行う、性売買従事者である。中世:性売買だけを行う仕事ではなく、基本的には歌手(歌女)として認識されていた。

②近世:前借金に縛られ、遊郭から出ることを許されなかった。中世:遊女は経営権を持つ自営業者で、居住や就業の自由を有していた。

③近世:蔑まれる存在で、深刻な差別の中で生きていた。中世:遊女を母に持つ貴族・武士が多く、それが昇進の際の妨げにはならなかった。

 ①については、「梁塵秘抄」が後白河法皇が当時のはやり歌「今様」を集めたもので、法皇が直接、遊女から歌を習っていたことからも、中世期には貴族たちが芸能者としての遊女を尊重していたことは明らかだ。また芸能を中心に自立した遊女集団が形成され、芸の女系相伝も行われていた。

 それが中世後期から近世になると、それまで市街地に散在していた遊女屋が市街周縁の一角に押し込められ遊郭が形成される。同時に女性経営者は男性に取って代わられ、遊女は「悪所」に住まう性売買を生業とする汚らわしい存在というイメージが定着していく。

 そうしてみると冒頭の歌も、国文学者の西郷信綱がいち早く喝破したように、我が身の罪業を悔いるのではなく、遊ぶ子供の声を聞いて自分の歌心が刺激され、自然と体が揺さぶられると読むのが正しいように思える。 〈狸〉

(吉川弘文館 1980円)


最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    佐野勇斗は書道六段で英語も堪能 愛知県立岡崎西高校から明治学院大英文学科へ

  2. 2

    これが日本の「中流」サラリーマン転落の軌跡 年金の「繰り上げ受給」を選ぶのは、お金と仕事がない人

  3. 3

    ドジャース大谷翔平「サイ・ヤング賞&首位打者」同時授賞に現実味 4年連続5度目のMVPは既定路線

  4. 4

    見上愛は桐朋女子中高から日芸演劇学科に進んで演出家を志す 大学同級生・河合優実との本当の関係

  5. 5

    山口組、稲川会、住吉会…最高幹部3者の極秘会食で何が話し合われたのか

  1. 6

    嵐が去った後に340万人のファンが向かう先…Snow Man、M!LKに次いで有力“不祥事グループ”「ACEes」に募る不安

  2. 7

    ミスチル、銀杏BOYZ、T-BOLANの直前ライブ中止〈はやく判断できないのか〉アーティストの決断が遅れる背景とジレンマ

  3. 8

    「Aぇ!group」草間リチャード敬太は事件から“ほぼ復活” 大阪学院大で学んだ苦労人の前途

  4. 9

    巨人橋上監督代行が坂本勇人に肩入れする事情…出場メンバーとオーダーに“唯一”口を出した

  5. 10

    高市首相ハレンチ答弁の醜悪! 中傷動画疑惑めぐる「秘書音声」追及に「文春の有料会員イヤ」と屁理屈