築地市場関連本
「築地の記憶 人より魚がエライまち」冨岡一成・文 さいとうさだちか・写真
今や外国人観光客の人気スポットにもなっている築地市場だが、今年11月に81年の歴史に幕を閉じ、その機能は豊洲市場へと引き継がれることが決まっている。「築地で仕入れてきた」がセールスポイントになるほど、その存在自体がブランド化した築地市場の閉場に多くの人が寂しさを感じているのではなかろうか。そこで今週は築地関連本4冊を紹介する。
江戸時代から続く魚河岸のきっぷが今も残る築地市場の魅力を惜別の思いを込めて伝えるフォトエッセー集。
築地市場の正式名称は東京都中央卸売市場築地市場。その前身の魚河岸は、江戸時代初期から300年余り、日本橋にあった。江戸では魚に限らずあらゆる物資が水運を使って輸送されており、その船荷を陸揚げするところが「河岸」だ。江戸には「大根河岸」など70ほどの河岸があったが、中でも日本橋魚河岸は江戸屈指の繁盛地で、やがて河岸といえば魚河岸のことを指すようになったという。
市場の主役は卸売会社と仲卸だ。卸売会社が日本、世界各地から集めてきた魚は、多くが委託販売品として荷受けしたもので、これを仲卸に大量に卸売りする。一方の仲卸は、マグロ仲卸の集まりは「大物業会」、寿司屋や料理屋向け生け魚を扱う「特種物業会」などと、扱う魚種ごとに「業会」という集合体を形成している。
といった歴史や概要から、約80年前に帝都復興事業として建造された昭和モダン建築の傑作ともいえる築地市場の建物としての見どころや、1グラムの狂いもなくシャケを切り分ける職人や、何百キロもの冷凍マグロを「小車」に満載して引っ張る軽子さんなど市場で働く伝説の名人列伝まで。かつて築地市場で働いていた冨岡氏ならではの視点で市場の隅々まで案内。
長い時間をかけて醸成されたこの独特な場所が放つ魅力が、新たな豊洲市場に引き継がれるかどうかはまだ誰にもわからない。
写真と文章で魚河岸の「空気」や「におい」までをも記録した好著。(旬報社 1700円+税)
「築地市場 クロニクル1603-2016」福地享子築地魚市場銀鱗会著
築地市場の一角が一時期、洗濯工場として使われていたことをご存じだろうか。敗戦後、広大な敷地と立地に目をつけた進駐軍のランドリー部隊に接収されたのだ。アメリカから運び込まれた最新設備を使って、専門の知識を持つ将校に技術を学び、多くの日本人が作業に従事していたという。ランドリーは1955年まで続き、明け渡し後は民間に機械が払い下げられた。まさに築地は日本の近代クリーニング業の始まりの地でもあるのだ。
本書は、震災で被災した日本橋の魚河岸から、築地市場最後となる今年の初市まで、築地市場にまつわるトピックスを貴重な未公開写真とともに紹介しながら、その足跡をたどるビジュアル歴史ガイド。(朝日新聞出版 2500円+税)
「大正の築地っ子」岸井良衞著
築地は築地でも、市場が移転してくる前の大正時代に築地で幼少期を過ごした著者が、当時の町の様子や人々の暮らしぶりを紹介しながら、半生を振り返った回想記。
明治41年、氏はくしくも日本橋魚河岸のすぐ近くの小網町3丁目で誕生。父親は弁護士で、事務所を兼ねた自宅は、父親の仕事の発展とともに新富町、大森と都内を転々とした後、大正5年、満8歳のときに築地に落ち着く。
御用聞きに来ていた魚屋や肉屋、門跡さまと呼んでいた築地本願寺界隈、築地が折り返しだった市電、そして本願寺の末寺と墓地だった今の場外市場の辺りの風景など、震災前の築地が詳細に描写されている。(青蛙房 2100円+税)
「築地市場 絵でみる魚市場の一日」モリナガ・ヨウ作・絵
一般には立ち入ることができない築地市場の一日をルポ風に描いた絵本。
真夜中、魚を満載したトラックが続々と市場に到着する。その数、一晩に約8000台。トラックから降ろされた魚は、種類や保存方法によってそれぞれの売り場や水槽に運ばれていく。その後、卸売業者や仲卸業者を経て町の鮮魚店に並ぶまでの過程をイラストでわかりやすく解説する。写真では詳細が分からない仲卸店の俯瞰解説図をはじめ、生マグロのセリ場や、市場の顔ともいえる「ターレ」(ターレット式構内運搬自動車)などの市場で働くさまざまな運搬車の紹介まで。築地市場にあふれる「活気」をも感じられる子供と一緒に堪能できる一冊。(小峰書店 1500円+税)