選挙の結果を左右するのは…? 米大統領選直前ガイド

公開日: 更新日:

「アメリカ政治の壁」渡辺将人著

 米留学時代に民主党の上院議員事務所でインターンをしたこともある著者。選挙運動も現場スタッフとして経験し、アメリカ政治を「内側」から語ることのできる数少ない日本人政治学者だ。

 選挙や政権運営のカギは「玉」「風」「技」の3つで決まると著者はいう。「玉」は候補者の資質や経験や経歴。21世紀になっても「女性大統領」への抵抗は根強く、ヒラリーがこの間ずっとパンツルックなのも「最高司令官」として男まさりであることを示すためらしい。

「風」は内外情勢や議会、世論などがつくる風向きのこと。大統領就任直後のオバマは「追い風」に恵まれたが、中間選挙で共和党が多数派になってからは「逆風」に悩まされた。そして「技」は周囲の人材の知恵や資金。実はサンダース旋風は、ヒラリーの対抗馬とみられたエリザベス・ウォーレン上院議員が不出馬になったとき、彼女の支持者がどっとサンダース陣営に回ったからだったという。

 中道路線のヒラリーに対して「表」から左派の圧力をかけたのがサンダース、「裏」から同じ役割を果たしたのがウォーレンだったのだ。(岩波書店 860円+税)


「アメリカ大統領制の現在」待鳥聡史著

 世界最強国家の元首といいながら実は米大統領の権限が強くない。それは三権分立など権力分散の仕組みが徹底しているため。同じ大統領制でもロシアやフランスとは大違い。その訳は独立革命後の政治制度の整備。当初、大統領は議会が定める立法や政策に対して注文をつけるような存在で、自ら積極的に行政を展開する立場ではなかったという。その後、歴史とともに大統領の権力は次第に強化され、大統領が議会の暴走を抑止するのではなく、逆の構図が20世紀に出来上がった。

 本書は歴史をたどりつつオバマ政権時代の共和党下院の反大統領戦術まで丁寧に解説。改めてオバマの苦労がしのばれる。著者はアメリカ政治が専門の京大教授。(NHKブックス 1400円+税)


「徹底解説!アメリカ」池上彰、増田ユリヤ著

 テレビ番組でタッグを組む2人が対談形式と取材記事で解説する今回の大統領選。なぜトランプやサンダースがあれほどの人気を誇るのか。

 サンダース支持者のボランティア宅を訪ねると、まるでロック歌手のような熱狂を感じたという。逆にヒラリー陣営のパーティーは「お金のある人は来てちょうだい」という印象。ボランティアもエリートがずらりだという。トランプの特徴は、政治の専門家ほどその躍進を予想できなかったこと。それほど予想外だったわけだが、取材では「隠れトランプ支持」が意外に多く、特にハーバードやコロンビア大などを出たエリートで、表立っては支持を表明しないだけという人物がしばしばいるという。(ポプラ社 800円+税)


【連載】NEWSを読み解く今週のキーワード

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    安青錦は大関昇進も“課題”クリアできず…「手で受けるだけ」の立ち合いに厳しい指摘

  2. 2

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  3. 3

    マエケン楽天入り最有力…“本命”だった巨人はフラれて万々歳? OB投手も「獲得失敗がプラスになる」

  4. 4

    中日FA柳に続きマエケンにも逃げられ…苦境の巨人にまさかの菅野智之“出戻り復帰”が浮上

  5. 5

    今田美桜に襲い掛かった「3億円トラブル」報道で“CM女王”消滅…女優業へのダメージも避けられず

  1. 6

    高市政権の“軍拡シナリオ”に綻び…トランプ大統領との電話会談で露呈した「米国の本音」

  2. 7

    エジプト考古学者・吉村作治さんは5年間の車椅子生活を経て…80歳の現在も情熱を失わず

  3. 8

    日中対立激化招いた高市外交に漂う“食傷ムード”…海外の有力メディアから懸念や皮肉が続々と

  4. 9

    安青錦の大関昇進めぐり「賛成」「反対」真っ二つ…苦手の横綱・大の里に善戦したと思いきや

  5. 10

    石破前首相も参戦で「おこめ券」批判拡大…届くのは春以降、米価下落ならありがたみゼロ