「四月になれば彼女は」川村元気著
物語はボリビアのウユニ塩湖から届いた1通の手紙から始まる。かつての恋人ハルからの9年ぶりの便りを受け取った藤代俊は、1年後に結婚式を控えている。しかし、婚約者の弥生も自分もかすかなわだかまりを抱えつつ式の準備を進めていた。そこへ突然舞い込んだハルの手紙。藤代は、新入生のハルが初めて大学の写真部に飛び込んできた4月のことを思い起こす。それから12カ月、時を置いて、旅先のハルから手紙が届き、かつての思い出と現在の弥生との関係が交錯しながらつづられていく。
ハルはなぜ今になって手紙をよこしたのか。さしたる不満も不都合もなく同棲を続けている藤代と弥生が、互いに結婚にもうひとつ積極的になれないのはなぜか。一時はあれほど確かなものに思えた「愛」がいつの間にか心もとないものになってしまうのはなぜか……。「世界から猫が消えたなら」の著者が、サイモンとガーファンクルの名曲を通奏低音として、永遠の愛が不可能なことを知りつつも、愛の奇跡を追い求める男女の切ない思いを描き切る。(文藝春秋 1400円+税)