沖縄戦から80年
「完全版 沖縄戦 大戦略なき作戦指導の経緯と結末」齋藤達志著
80年前、本土防衛の悲惨な捨て石とされた沖縄。いまも日米同盟の負担は沖縄に集中して課せられている。
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「完全版 沖縄戦 大戦略なき作戦指導の経緯と結末」齋藤達志著
本書の特徴はなんといっても著者が現役の自衛官であること。防衛省防衛研究所で戦史を研究する専門家だ。つまり本書は旧日本軍の後継たる自衛隊の公式戦史といえるだろう。
重厚な研究書の趣ある本書は2つの点で注目される。第1は1次資料を丹念に当たって、在沖日本軍の高級将校たちの右往左往ぶりを明らかにしていること。米軍進攻直前、大本営から沖縄の1個師団を台湾防衛のために転出させると指示されたため、それまでの作戦は大幅に変更されることになる。著者はその間のやりとりを淡々と記すが、そこから現代にも通じる官僚主義の暗い落とし穴が見える。加えて特攻攻撃も沖縄戦のころには試算でさえ成功率15%程度と考えられたという。当時の参謀ら将校は高級官僚。彼らが上からの無理な命令のもとで、しだいに無謀で投げやりな戦術にのめり込んだのだ。
第2は沖縄戦で米軍の捕虜になった日本兵は5月末時点でわずか120人余だったこと。これは欧州の独軍捕虜とは比べものにならぬ少なさだ。つまり日本軍兵士は死ぬまで戦い、米軍の損耗も大きく、住民の大半も巻き込まれたわけだ。
著者は結論部で沖縄戦の陸海軍がバラバラな動きに終始し、「日本軍の近代軍としての実力」が低かったことを示唆する。現代のニッポン官僚組織の体たらくを連想する読者は少なくないのではないだろうか。
(中央公論新社 3960円)
「沖縄戦 なぜ20万人が犠牲になったのか」林博史著
「沖縄戦 なぜ20万人が犠牲になったのか」林博史著
戦後も10年経って生まれた著者は長年、軍隊や軍政下の社会の研究をライフワークとしてきた歴史学者。その根底にあるのは沖縄住民をすべて巻き込み、米軍に投降すれば犯罪として容赦なく県民を殺害した日本軍への怒り。またそれを引き継いでいるかのような戦後の自衛隊の在り方だろう。本書はなぜ沖縄が本土防衛の捨て石に選ばれたのか、その基本から再検討する。
戦争最末期、近衛文麿元首相が戦争の早期終結を昭和天皇に上奏したが、天皇は「もう一度戦果を挙げてから」と近衛を退けたという。つまり天皇は我が身を守る(国体護持)ために沖縄を捨て石にすることを強いたのである。戦後、徴兵された一般国民の間に天皇の戦争責任を問う声が広く深く根付いていたことを後世は知るべきだろう。
本書は軍と一般県民双方の事情をふりかえるのに適した入門の役割も兼ねている。
(集英社 1243円)
「続・沖縄戦を知る事典」古賀徳子ほか編
「続・沖縄戦を知る事典」古賀徳子ほか編
沖縄戦の特徴は本島の全体と離島までがすべて巻き込まれたこと。本土のように東京大空襲のような都市部の激しい空襲の一方、農村地帯は比較的軽微な損害に終わったというのと沖縄の事情は大きく違っているのだ。本書は沖縄本島を南部・中部・北部と分け、本島周辺の離島や大東島、さらに宮古・八重山をそれぞれ独立した章にしている。
米軍は本島南部への上陸を陽動作戦に、主力は中部西海岸に上陸して一進一退を重ねながら首里に迫った。
この道筋は日本軍の予想した通りだったが、軍は司令部を内陸に置いて見晴らしの利く地点からの抵抗と反撃を企図していた。つまり沖縄の住民を軍の防衛の捨て石にしていたのだ。
本書はこのさまを地域別の小村まで分け入って詳述。参考となる写真も多数配している。手分けした各章の筆者は総勢28人。地元の大学研究者や新聞記者のほか郷土史家も多数参加しての共同作業だ。
沖縄戦の記憶と歴史を必ず後世に引き継ごうとする固い決意の表れでもある。
(吉川弘文館 2640円)