「あのころ、吉祥寺には『ぐゎらん堂』があった。」村瀬春樹著

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「あのころ、吉祥寺には『ぐゎらん堂』があった。」村瀬春樹著

 現在、大阪・関西万博が開かれているが、前の大阪万博の開催は1970年3月。同月、よど号ハイジャック事件、4月、ビートルズ解散発表、6月、日米安保条約自動延長、11月、三島由紀夫割腹。この年の10月、まだ「さびしい町」だった東京・吉祥寺近くのペンシルビルの3階に床面積12坪の「音楽を聴かせる店」が開店した。のちに“伝説のライブハウス”と称されたぐゎらん堂だ。本書は店主として10年間経営に携わった著者による同店をめぐる実録クロニクルだ。

 開店を知らせるチラシをチンドン屋に配ってもらい、800本入りの徳用マッチを作製したものの、しばらくは連日閑古鳥が鳴くありさま。暇に飽かして古いブルースのレコードを集めて店でかけていると、その噂を聞いた青年が店を訪れる。ブルースミュージシャンのシバだ。このシバが招き猫となって、店には貧しいミュージシャンが集まってくるように。

 高田渡、友部正人、加川良、斉藤哲夫、なぎら健壱、中川五郎、あがた森魚といった70年代のフォークソング界を牽引する人たちだ。後に、彼らを中心に50円という破格のライブ料金の「水曜コンサート」を毎週行う。

 ミュージシャンだけでなく、赤瀬川原平、羽良多平吉、いしかわじゅん、鈴木翁二、長谷川集平、安西水丸といったアーティスト、ほかにも詩人の金子光晴、佐藤英麿、「ガロ」編集長の長井勝一といった面々も頻繁に店を訪れていた。しかし店の本当の主役は、「自身が身を置く日常にうんざりし」ていた少年少女たちだ。暗くて怪しげな店で交わされる大人たちの会話や奏でられる音楽を聴くために、せっせと通っていた。

 著者は彼ら彼女らの思いを当時のノートから再現してみせる。そうした思い出を積み重ねて10年間の店の軌跡を描くと同時に、70年代日本のカウンターカルチャーの内側からの証言が濃密に詰め込まれている。

 〈狸〉

(平凡社 4950円)

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