「剣豪夜話」津本陽著
自ら剣道3段、抜刀道5段という腕前の著者は、これまでに剣豪・武人を主人公にした小説を数多く著してきた。本書は、著者が直接教えを請い、話を聞いた現代の武人・剣豪と、それぞれの祖となる歴史的な人物の話を通じて、日本の武の神髄を語るもの。
普通なら到底なしえない桃形兜の兜割りを明治天皇の面前で見事成功させた直心影流の剣客、榊原鍵吉。二十数人の甲冑武者に襲われながら、7人を斬り伏せ、5本の槍のけら首を斬り折った、示現流の始祖、東郷重位。200人のやくざを相手にたった一人で応戦した大東流合気柔術の祖、武田惣角……。
これら伝説上の人物に引けを取らない技量の凄みを伝えるのが、中村流抜刀道宗家・中村泰三郎、新陰流21世・柳生延春、大東流合気柔術宗範・佐川幸義といった現代の達人たち。
合間、合間には、著者自身の剣道や武道にまつわる自伝的な回想も織り込まれており、日本の武道がたどってきた歴史が重層的に語られるという、著者ならではの趣向。(文藝春秋 1400円+税)