性被害に対してとことん緩い男性の感覚

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「Black Box」伊藤詩織著/文藝春秋/1400円+税

「総理に最も食い込む男」と呼ばれたジャーナリスト・山口敬之氏からのレイプ被害を実名で訴えた女性による書。性被害が女性に与える心身への苦痛と、課題が残る法律、いかんともしがたい警察の捜査手法の現状を実体験から明かす。

 本書を読んだ人が性被害の酷さについて感じたことをネットで続々とつづっているが、ここでは大抵の場合の「加害者」である男の視点から書く。

〈都内に借りていた部屋へ戻ると、真っ先に服を脱いで、山口氏に借りたTシャツはゴミ箱に叩き込んだ。残りは洗濯機に入れて回した。この日起こったすべての痕跡を、洗い流してしまいたかった〉

 こうした感覚は男はめったに抱かない。理由は「自分が望まぬ相手と性行為に至る」ということが、まれだから。だが、女の場合はレイプもあれば、いわゆる「枕営業」も存在する。今回の事件は男と女の性に対する感覚の相違が根底にあり、その相違を男は知っておかねばならない。本書を読むと自分がいかにそこに無自覚だったか反省する男は多いことだろう。本書ではNHK「あさイチ」の調査結果も紹介されていたが「性行為の同意があった」と思われても仕方がないものは「2人きりで食事」が11%、「2人きりで飲酒」が27%、「泥酔している」が35%とあった。著者はいずれにも当てはまる。

 この事件が起きた日、著者が山口氏と会ったのは3回目で、2人きりは初めてだった。しかも、著者は2人きりの会合だとは思っていなかった。山口氏がどう思ったか、というのはさておき、こういった状況で男は自分に都合よく解釈しがちだ。

「2人での飲みに応じてくれたってことはオレに気があるな……」「おっ、カウンターで少し近づいてきた。今夜はイケるぞ……」

 ここに「酔いすぎているので介抱する」という名目のもと、タクシーに乗せホテルに連れ込んでしまう。その時点で「合意」が成立したと考えてしまうのだ。強姦の争点で重要なのは①行為があったか②合意があったか、だが男は②について意識がとことん緩い。その緩さこそ女性を被害者にしてしまうのである。本書を読んで「緩さは引き締めねば」と思えぬ男は考えを改めよ。

 著者が警察から「難しいですね」や「厳しいね」ばかり言われ、結局自分で一つ一つ事実を集めていかなくてはならない、という状況に至るがそこには諦観さえ感じられる。 ★★★(選者・中川淳一郎)

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