野地秩嘉
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野地秩嘉ノンフィクション作家

1957年、東京生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務などを経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュや食、芸術、文化など幅広い分野で執筆。著書に「サービスの達人たち」「サービスの天才たち」『キャンティ物語』「ビートルズを呼んだ男」などがある。「TOKYOオリンピック物語」でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。

<第16回>「勝新太郎と同じくらい、寝起きが悪いと言われた」

公開日: 更新日:

 高倉健勝新太郎については語ることはあったけれど、「無宿」についてはあまり触れなかった。高倉健にとって本作は自分が出た映画ではなく、勝新太郎の映画なのだろう。わたしが覚えている高倉健の言葉は次のようなものだ。

「『無宿』の現場では勝ちゃんがよく遅れてきたけれど、オレも遅刻していた。勝新太郎と同じくらい、寝起きが悪いと言われた」

 前述の通り、本作はなんといっても映像が美しい。鮮烈な映像が流れるように続いていく。ただ、高倉健自身は流れる映像ではなく、一枚の絵画を映画のなかに残したいと思っていたのではないだろうか。彼が出演し、しかも気に入っていた映画には、どこかに「絵画のようなカット」が含まれている。「あ・うん」における三木のり平との共演シーン、「鉄道員(ぽっぽや)」における雪のなか、ホームに立ち尽くす駅長……。一幅の絵ともいえる、静止画が彼の望みだったように思えてならない。

 傍証ではあるが、高倉健は絵が好きだった。ただし、たくさん集めていたわけではない。一枚の絵を毎日、眺めていた。

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