升毅さん ショックを受けた佐々部清監督の「升さん、やりすぎです」の一言

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升毅さん(俳優/65歳)

 数多くの映画ドラマに出演、名バイプレーヤーとして活躍する升毅さん。転機は2015年の出演作「群青色の、とおり道」で佐々部清監督と出会ったこと。17年には佐々部監督の「八重子のハミング」で初主演も果たした。昨年急逝した名匠に影響を受けた瞬間とは……。

 ◇  ◇  ◇

■佐々部清監督との濃密な5年間

 佐々部清監督と初めて会ったのは14年6月です。その年の8月に撮る「群青色の、とおり道」のお話をいただきました。他の方に出演を断られ、野村展代プロデューサーが「升毅さんはどうですか」と監督に話をしたのがきっかけで、声をかけていただきました。

「半落ち」などで日本アカデミー賞を受賞した監督ですからね。僕にとっては巨匠の一人。「佐々部清からオファーが来た!」と喜び驚きました。

 でも、最初の(脚)本読みの段階で何が起きているんだろうと理解できず、ショックを受けました。役者として40年間やってきたことを完全に否定されたからです。

 若い役者さんのセリフが、抑揚なくむしろ棒読みに聞こえたんです。僕はいつも全力でやりますから、彼らはやる気がないのかなとも思ったのですが、監督には「升さん、やりすぎです。若い俳優さんに合わせてください」と言われた。「あれに合わせろ」みたいな言い方でした。この人、僕の芝居を知っているのかなと思ったし、ショックでした。

 でも、次の時は切り替えるしかないので、開き直って棒ゼリフでやってみました。僕は「もう少し……」と言われるのかと思っていたのですが、「それでやってください」と言われ、もう半信半疑でしたね。ただ「群青色の」は監督がアカデミー賞を獲得したような大きな作品ではなく、片田舎の小さな家族の物語。僕は町工場のおやじの役です。そこには監督の世界観があって、撮りたい映画ではそうするという信念のようなものを感じました。

 それからは監督が望むものに近づけるにはどうすればいいか考えるようにしました。それまでの僕なら役作りは髪をちょっと切り、白を入れてもらえばいいくらいだったと思うけど、この時は髪を短く切って白髪染めをやめ、日焼けサロンで焼いて日焼け止めもやめ、ひげも剃るのをやめて現場に入りました。

 入り口で監督に挨拶したら「おう!」とそっけなく言われたのですが、監督が撮影現場に入ってきて、僕を見た時に「おお、あれは升さんだったの?」と驚かれた。「地元の人が見学に来たのかと思った。わからなかったよ」と。僕は正解だったなとうれしくなりました。そして自然でやりすぎない芝居を意識しました。たまにOKが出た後に監督が僕のところにやって来て「今のがギリギリですから」と言われ、微妙なさじ加減もわかるようになって。出来上がった作品を見て監督が意図していることもよくわかった。佐々部監督と出会えてよかったなと思いましたね。

「群青色の」が完成する前に、監督がその後撮る「八重子のハミング」の脚本を渡されました。4度のがんから生還した夫とアルツハイマーの妻の話ですが、夫の役を「升さんにお願いしたい」と言われた。「監督に認められたんだな」と思いましたね。それからは一緒に食事したり酒飲みに行ったり。佐々部清と俳優ではない升毅の関係ができて、何もない時でも月に2回は飲んだり食ったりするようになりました。

「八重子のハミング」が出来上がって監督が全部の会場に舞台挨拶に行くというので、「僕も行けるなら全部行く」と2人で全国の映画館を回りました。いつも前日に現地に入り、地元の方と交流をして翌日は舞台挨拶……。ほぼ1年近くそれをやって作品の思いを伝えて歩きました。

高倉健からもらった腕時計も見せてもらった

 佐々部監督はとてもおしゃべりが好きでね。助監督時代の話や高倉健さんの映画についた時の話なんかもいっぱいしてくれた。「鉄道員(ぽっぽや)」では高倉さんが雪の中で演じるシーンのスタンドイン(立ち位置などの確認)を「僕がやった」とか。高倉さんが作品ごとに限られた人に記念の腕時計を差し上げるのは知られていますが、監督もいただいていて、さりげなく外して「これ、ちょっと」と見せてくれました(笑い)。

 カラオケも大好きでしたね。2人とも同世代、新ご三家が大好きだった。僕が秀樹を歌い、監督がひろみを歌い、秀樹の「傷だらけのローラ」は監督が替え歌を歌うので僕は歌わないとか。「升さん、五郎を歌ってよ」なんて言い合いながら楽しかったですね。

 監督の故郷の下関でやっている「海峡映画祭」にも何度も呼んでもらい、去年の2月も映画祭で監督と一緒で食事もしました。ところが、そのちょうど1カ月後に突然死された。本当にわけがわからなかった。放心状態です。これは現実か、いや夢なんじゃないか……。

ドキュメンタリー「歩きはじめる言葉たち」公開

 東日本大震災で家族や仲間を失った人が亡くなった人に手紙を書く「漂流ポスト3.11」が陸前高田にあります。監督はその陸前高田をメイン舞台にしたオリジナル脚本で映画を撮る予定でしたが、企画がストップ。その後プロデューサーの野村さんが監督を務めるドキュメンタリー映画に方向転換。その撮影が始まった直後に亡くなってしまった。

 野村監督と話し合い、僕は佐々部監督の思いを大切にしながら、亡くなった人に手紙を書く人の思いや管理されている赤川さんの思いなどを聞いてみたいと思って合流しました。佐々部監督が亡くなり、僕自身が手紙を書かざるを得ない立場になりました。

 佐々部監督は僕にとって出会いの衝撃はありましたが、「あからさまにあなたの芝居はいい」「あからさまにあなたのことが好きです」と言葉でなくても、それを伝えてくれた監督です。この「歩きはじめる言葉たち」で僕も言葉にならない思いを佐々部監督に伝えられたらと思います。

(聞き手=峯田淳/日刊ゲンダイ

「歩きはじめる言葉たち 漂流ポスト3.11をたずねて」10月16日、渋谷ユーロスペースほか全国公開
 
 

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