著者のコラム一覧
伊藤さとり映画パーソナリティー

映画コメンテーターとして映画舞台挨拶のMCやTVやラジオで映画紹介を始め、映画レビューを執筆。その他、TSUTAYA映画DJを25年にわたり務める。映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当。レギュラーは「伊藤さとりと映画な仲間たち」俳優対談&監督対談番組(Youtube)他、東映チャンネル、ぴあ、スクリーン、シネマスクエア、otocotoなど。心理カウンセラーの資格から本を出版したり、心理テストをパンフレットや雑誌に掲載。映画賞審査員も。 →公式HP

仏映画「リトル・ガール」が描くジェンダー観…製作陣が込めたメッセージとは

公開日: 更新日:

 学校教育の一環として子供たちにも見せたい映画が11月19日に公開されます。それは男の子の身体で生まれてきた7歳の少女サシャが、学校でスカートを穿かせてもらえず、男の子からは阻害され、女の子からは「男のくせに」と言われる中で、家族のサポートを受けて自由を得る為に社会に訴え続ける『リトル・ガール』というフランスのドキュメンタリーです。

 本作はサシャの母親のインタビューからスタートしますが、彼女は「妊娠時に女の子が欲しいと望んだことが原因なのでは?」と自分を責めたりしながら、学校に友達が居ないサシャの悲しみを受け入れ、目を背けずに改善策を日々、探している姿を映し出していきます。

 そんなサシャが「自分は女の子である」と自認したのは2歳を過ぎた頃からであり、ワンピースが大好きで、「彼女」と呼ばれたいトランスジェンダーである我が子が生きやすい環境を作る為に、母親が学校や周囲の大人に説明をしていくのです。

踊ることが好きな主人公は…

 本作ではプールや海に入ることも水着を気にして躊躇していたサシャに、母親が可愛い水着を選ぼうとお店へ行くシーンが映し出されるのですが、可愛らしいビキニを気に入ったサシャに水着の上に履けるセットのスカートもあることを母親は教えます。

 そんな今となっては当たり前の水着用スカートも実はトランスジェンダーの人にも役立つのだと気付かされたのは、バレリーナを目指す15歳のトランスジェンダーのララの姿を映し出したベルギー映画『Girlガール』(2018)のレオタード姿に時間をかけるシーンの印象も残っているからかもしれません。

 そして偶然にも本作のサシャも踊ることが大好きでバレエ教室に通っているのですが、発表会では一人だけ男の子の衣装を先生に着させられてしまいます。

「らしさ」「偏見」に縛られない社会へ

 社会には、様々な「男の子らしさ」と「女の子らしさ」をはらんだ色や呼び方が存在し、サシャの通う学校では、校長や担任が「性別が男ならばズボンで登校」という校則に拘り、サシャ親子の願いを却下します。その結果、ひとりの人間の存在を否定したことになり、心を深く傷つけ、その人を愛する周囲の人々をも苦しめるのです。

 校則といえば、日本でもひと昔前は当たり前だったランドセルの色は「黒」は男子、「赤」は女子という規定も、2001年の大手メーカーによる24色のランドセルの登場で歴史が変わり、今や好きな色のランドセルを選んで登校して良い時代になっています。

 さらに2013年に施行されたいじめ防止対策推進法により、「くん」ではなく「さん」付けの統一を行う学校が増えたことで、呼び方により男女の区別を付けない教育にも繋がっているように感じます。

 けれどまだまだ性別による差別やいじめが存在する現代。子供たちが偏見を持たない為には、大人たちが発言や行動にも気を配らなければならず、「自分は偏見などない」と思い込むことが危険であり、日々、意識して行くことが大切な気がします。

 そう考えると、ディズニー映画『シュガー・ラッシュ:オンライン』(2018)のラストで、高い所から落ちて行く大男ラルフをディズニープリンセス達が自分達のドレスを使って救い、ラルフがドレスを着たシーンには、「男の子だってドレスを着ていいんだよ」という製作陣から子供たちへのメッセージが込められているのかもしれませんね。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    亡き長嶋茂雄さんの長男一茂は「相続放棄」発言の過去…身内トラブルと《10年以上顔を合わせていない》家族関係

  2. 2

    朝ドラ「あんぱん」豪ちゃん“復活説”の根拠 視聴者の熱烈コールと過去の人気キャラ甦り実例

  3. 3

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  4. 4

    “名門小学校”から渋幕に進んだ秀才・田中圭が東大受験をしなかったワケ 教育熱心な母の影響

  5. 5

    「時代と寝た男」加納典明(17)病室のTVで見た山口百恵に衝撃を受け、4年間の移住生活にピリオド

  1. 6

    中居正広氏に降りかかる「自己破産」の危機…フジテレビから数十億円規模損害賠償の“標的”に?

  2. 7

    “バカ息子”落書き騒動から続く江角マキコのお騒がせ遍歴…今度は息子の母校と訴訟沙汰

  3. 8

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  4. 9

    「こっちのけんと」の両親が「深イイ話」出演でも菅田将暉の親であることを明かさなかった深〜いワケ

  5. 10

    長嶋一茂が父・茂雄さんの訃報を真っ先に伝えた“芸能界の恩人”…ブレークを見抜いた明石家さんまの慧眼

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  2. 2

    大谷 28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」とは?

  3. 3

    学力偏差値とは別? 東京理科大が「MARCH」ではなく「早慶上智」グループに括られるワケ

  4. 4

    ドジャース大谷の投手復帰またまた先送り…ローテ右腕がIL入り、いよいよ打線から外せなくなった

  5. 5

    よく聞かれる「中学野球は硬式と軟式のどちらがいい?」に僕の見解は…

  1. 6

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  2. 7

    進次郎農相の「500%」発言で抗議殺到、ついに声明文…“元凶”にされたコメ卸「木徳神糧」の困惑

  3. 8

    長嶋茂雄さんが立大時代の一茂氏にブチ切れた珍エピソード「なんだこれは。学生の分際で」

  4. 9

    (3)アニマル長嶋のホームスチール事件が広岡達朗「バッドぶん投げ&職務放棄」を引き起こした

  5. 10

    米スーパータワマンの構造的欠陥で新たな訴訟…開発グループ株20%を持つ三井物産が受ける余波