著者のコラム一覧
伊藤さとり映画パーソナリティー

映画コメンテーターとして映画舞台挨拶のMCやTVやラジオで映画紹介を始め、映画レビューを執筆。その他、TSUTAYA映画DJを25年にわたり務める。映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当。レギュラーは「伊藤さとりと映画な仲間たち」俳優対談&監督対談番組(Youtube)他、東映チャンネル、ぴあ、スクリーン、シネマスクエア、otocotoなど。心理カウンセラーの資格から本を出版したり、心理テストをパンフレットや雑誌に掲載。映画賞審査員も。 →公式HP

いじめ問題を若者と考えるために…話題作「少年の君」が提示するもの

公開日: 更新日:

(編注:若干のネタバレを含みます)

 静かながら確実に名を広げている映画が公開中です。それは第39回香港電影金像奨では作品賞・監督賞・主演女優賞を含む8冠受賞、更に第93回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた「少年の君」という作品です。

 監督は、「インファナル・アフェア」(2002)などに出演する香港の名優、エリック・ツァンの息子デレク・ツァン。前作「ソウルメイト/七月と安生」(2016)では幼なじみで対照的な女の子2人の繋がりと掛け違っていく人生の歯車を繊細に綴っていったのですが、今作は前作で主演を務めたチョウ・ドンユイが社会の渦に巻き込まれながら這い上がろうとする主人公を熱演しています。

■壮絶ないじめ、孤独と一筋の救済を描く

 物語は、学校で起こった同級生の自殺事件から幕を開け、クラスメイトだった高校3年生のチェン・ニェンは厳しい進学校内でのいじめについて目を背けられなくなります。陰湿ないじめはチェン・ニェンへと移り、出稼ぎ中の母親にも言えないまま彼女は孤独や苦痛と闘うことに。そんなある日、ひどい暴行を受けている不良少年シャオベイを救ったことから、チェン・ニェンはストリート・チルドレンのシャオベイの家で宿題をするようになり、自然と惹かれ合い、まるで光と影のように寄り添い始めるのです……。

 いじめを告発した結果、いじめられるという連鎖の世界で、どんなにひどいいじめを受けても力強い眼差しで立ち上がるチェン・ニェンを演じたチョウ・ドンユイは、中国では“13億人の妹”という愛称で親しまれていますが、劇中、彼女が本物の髪をいじめっ子達から切られるという痛ましいシーンが映し出されます。

 けれどその後、慈しむようにシャオベイが変わり果てたチェン・ニェンの頭を綺麗な丸刈りにし、自らの頭にもバリカンを入れ、一緒に坊主になって傷付いた心を愛で包み込んでいくのです。まさに目を覆いたくなるシーンの後に、愛する人が居場所として存在し、抱きしめるという緩急のある救済の構成。

 そんな不器用だけれど愛情溢れる不良少年シャオベイを演じるイー・ヤンチェンシーは、国民的アイドルTFBOYSのメンバーという正真正銘のトップスター。このような人気スター2人を主演に起用したことも相まって、本国では老若男女幅広い層が映画館へと足を運び、250億円近い興行収入を記録しました。

映画を超えて、素顔でいじめと向き合うこと

 さらに興味深いのは、映画の冒頭とラストに、「この映画がいじめ問題の抑止になることを願う」「子供たちを救おう」というような趣向のメッセージが映し出されます。

 ラストではイー・ヤンチェンシーが自ら顔出しで発言しているのですが、この手法は高校を舞台にしたNetflixオリジナルドラマシリーズ「13の理由」(2017-20)でも使われ、登場人物を演じる俳優たちが冒頭に顔出しで「自殺などをテーマにしているのでドラマを見て苦しくなったら見ないほうがいい」「信頼出来る大人と見て欲しい」「誰かに悩みを相談したくなったら専用サイトにアクセスして」と語ります。

 このように俳優がリアルな姿で語りかけることで、若者たちにいじめはフィクションではなく現実に起こっている問題だと認識してもらい、悩みを誰かに打ち明けることや、いじめはいけないと気付いて貰おうと配慮をした上で製作されているのです。

 確かに辛いシーンばかりでは子供達は映画を見たいと思わないはず。であれば、子供が見たいと思うキャスティングと恋愛も取り入れたドラマティックな構成にして、いじめの実態を散りばめながらいじめを減らす方法を一緒に考える物語作りを。「少年の君」は製作スタッフ皆がそんな思いから生み出していった気がします。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    「汽車を待つ君の横で時計を気にした駅」は一体どこなのか?

  2. 2

    国分太一が「世界くらべてみたら」の収録現場で見せていた“暴君ぶり”と“セクハラ発言”の闇

  3. 3

    沢口靖子「絶対零度」が月9ワースト目前の“戦犯”はフジテレビ? 二匹目のドジョウ狙うも大誤算

  4. 4

    国分太一は人権救済求め「窮状」を訴えるが…5億円自宅に土地、推定年収2億円超の“勝ち組セレブ”ぶりも明らかに

  5. 5

    “裸の王様”と化した三谷幸喜…フジテレビが社運を懸けたドラマが大コケ危機

  1. 6

    人権救済を申し立てた国分太一を横目に…元TOKIOリーダー城島茂が始めていた“通販ビジネス”

  2. 7

    森下千里氏が「環境大臣政務官」に“スピード出世”! 今井絵理子氏、生稲晃子氏ら先輩タレント議員を脅かす議員内序列と評判

  3. 8

    大食いタレント高橋ちなりさん死去…元フードファイターが明かした壮絶な摂食障害告白ブログが話題

  4. 9

    菅田将暉「もしがく」不発の元凶はフジテレビの“保守路線”…豪華キャスト&主題歌も昭和感ゼロで逆効果

  5. 10

    後藤真希と一緒の“8万円沖縄ツアー”に《安売りしすぎ》と心配の声…"透け写真集"バカ売れ中なのに

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  2. 2

    渋野日向子に「ジャンボ尾崎に弟子入り」のススメ…国内3試合目は50人中ブービー終戦

  3. 3

    ソフトバンクは「一番得をした」…佐々木麟太郎の“損失見込み”を上回る好選定

  4. 4

    沢口靖子「絶対零度」が月9ワースト目前の“戦犯”はフジテレビ? 二匹目のドジョウ狙うも大誤算

  5. 5

    巨人・桑田二軍監督の電撃退団は“事実上のクビ”…真相は「優勝したのに国際部への異動を打診されていた」

  1. 6

    阪神「次の二軍監督」候補に挙がる2人の大物OB…人選の大前提は“藤川野球”にマッチすること

  2. 7

    国分太一が「世界くらべてみたら」の収録現場で見せていた“暴君ぶり”と“セクハラ発言”の闇

  3. 8

    恥辱まみれの高市外交… 「ノーベル平和賞推薦」でのトランプ媚びはアベ手法そのもの

  4. 9

    後藤真希と一緒の“8万円沖縄ツアー”に《安売りしすぎ》と心配の声…"透け写真集"バカ売れ中なのに

  5. 10

    沢口靖子も菅田将暉も大コケ不可避?フジテレビ秋ドラマ総崩れで局内戦々恐々…シニア狙いが外れた根深い事情