著者のコラム一覧
細田昌志ノンフィクション作家

1971年、岡山市生まれ、鳥取市育ち。CS放送「サムライTV」キャスターから放送作家としてラジオ、テレビの制作に携わり、ノンフィクション作家に。7月に「沢村忠に真空を飛ばせた男 昭和のプロモーター・野口修評伝」(新潮社)が、第43回講談社本田靖春ノンフィクション賞を受賞。

五木ひろしの光と影<29>「五木をレコ大歌手にする」士気を高めた徳間音工の宣伝チーム

公開日: 更新日:

 つまりはこういうことである。「日本歌謡大賞」の第1回の受賞曲は「圭子の夢は夜ひらく」(藤圭子)、第2回は「また逢う日まで」(尾崎紀世彦)、第3回は「瀬戸の花嫁」(小柳ルミ子)と第2回の「また逢う日まで」以外はすべてレコ大と異なる曲に栄冠が輝いている。すなわち、受賞したからといってレコ大に近づくわけではなく、むしろ「歌謡大賞が取れたんだから、レコ大の方はいいだろう」という意識を審査員に持たせてしまいかねないのである。選挙の際に、候補者の名前を書く選挙区と、政党名を書く比例区が必ずしも一致しないのと同じことである。

 事実、沢田研二が所属するレコード会社のポリドールの宣伝チームには「これで面目が立った」という安堵した空気が蔓延したという。対照的に五木ひろしの所属する徳間音工の宣伝チームは「これで正真正銘、背水の陣だ。絶対にレコ大は取る。五木をレコ大歌手にする」と士気を高めた。

 話は2013年まで飛ぶ。NHK BSプレミアムのトーク番組「吉田拓郎の千夜一夜」に沢田研二がゲスト出演した。ホスト役の吉田拓郎が「沢田さんもかつて、レコード大賞とか受賞していましたよね」と話を振った。「ええ、一度だけ」「え、一度だけ? 沢田研二が一度だけっていうのも意外だな。やっぱりあれは、ポップス系に冷たいの?」と吉田拓郎が核心に迫ると、沢田研二は「まあ、あれは、パワーゲームだから」と一笑に付した。「それには何とも言えない」と吉田拓郎が苦笑まじりでその話題を締めくくったが、当の沢田研二からは、煮え湯を飲まされた苦い記憶と生ぬるい感情が画面越しから伝わった。

 1973年師走のこの時期、まさに「パワーゲーム」の真っただ中にあった。 =つづく

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阪神・梅野がFA流出危機!チーム内外で波紋呼ぶ起用法…優勝M点灯も“蟻の一穴”になりかねないモチベーション低下

  2. 2

    梅野隆太郎は崖っぷち…阪神顧問・岡田彰布氏が指摘した「坂本誠志郎で捕手一本化」の裏側

  3. 3

    国民民主党「選挙違反疑惑」女性議員“首切り”カウントダウン…玉木代表ようやく「厳正処分」言及

  4. 4

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず

  5. 5

    本命は今田美桜、小芝風花、芳根京子でも「ウラ本命」「大穴」は…“清純派女優”戦線の意外な未来予想図

  1. 6

    巨人・戸郷翔征は「新妻」が不振の原因だった? FA加入の甲斐拓也と“別れて”から2連勝

  2. 7

    時効だから言うが…巨人は俺への「必ず1、2位で指名する」の“確約”を反故にした

  3. 8

    石破首相続投の“切り札”か…自民森山幹事長の後任に「小泉進次郎」説が急浮上

  4. 9

    今田美桜「あんぱん」44歳遅咲き俳優の“執事系秘書”にキュン続出! “にゃーにゃーイケオジ”退場にはロスの声も…

  5. 10

    参政党のSNS炎上で注目「ジャンボタニシ」の被害拡大中…温暖化で生息域拡大、防除ノウハウない生産者に大打撃