『JOIKA 美と狂気のバレリーナ』排他主義とセクハラが横行するボリショイ・バレエの陰湿な裏舞台

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バレエの虎の穴どころか地獄の花園だ

 かくしてジョイはボリショイ入団という金星を射止める。だが、そこにも難敵がいた。幹部から「スポンサーをつけろ」との指示を受け、金持ちの中年男に引き合わされたのだ。

 この男がいかにもオリガルヒの悪党という雰囲気で、ジョイに肉体関係を迫ってくる。ジョイが勇気をふるって拒絶すると、翌日さっそくボリショイからクビを宣告されるなど、人権無視のバレエ少女残酷物語が展開する。筆者は子供のころテレビで見ていた「タイガーマスク」の「虎の穴」を思い出してしまった。全人生をバレエに投入し、精神と肉体も犠牲にしても報われることのない弱肉強食の世界だ。

 ロシア人同士でもさまざまな憎悪が渦巻いている。本作のプレス資料によると、2013年にセルゲイ・フィーリンというボリショイの芸術監督が顔に強酸をかけられて片目を失明する事件が起きた。自分の恋人が「白鳥の湖」に配役されなかったことを恨んだダンサーがごろつきを使って襲撃させたという。

 日本でもボリショイ・バレエの公演が行われ、華やかなCMが放映される。それを見るたびに、この美しい世界の裏側で常に醜い人間ドラマが展開しているのだろうと思っていたが、ここまでひどいとは思わなかった。これでは虎の穴どころか地獄の花園だ。劇中、ジョイの母親が娘を気遣う場面が出てくるが、こんなところに留学させたら、娘は幸せにレッスンを受けているのかと親は気が休まる暇もないだろう。

 この映画を一言で表現するとしたら、夢を追い求める女性が陥る陰湿な嫌がらせ物語だ。 最初から最後まで雰囲気が暗く、ジョイが心から笑う場面はない。それゆえ観客は針のむしろに座らされて鑑賞しているような気分になる そのシリアスな描写が本作の見どころだ。ただし映像は美しい。

 バレエというノーブルな芸術文化の裏側に敷き詰められた数々の苦しみと落とし穴。ここに描かれたエピソードのほとんどは実際に起きたことだ。心して見てほしい。

(文=森田健司)

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