マヤルカ古書店(京都・一乗寺)安部公房、石川淳…装丁に力が注がれた頃の近代文学がぎっしり

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 京都・北大路通と叡山電鉄の線路が交差する、少し北。近くで迷っていると「ここで~す」と手を振る姿が。店主・なかむらあきこさんが元気よく迎えてくれた。

 ブルーグリーンの枠のガラス戸を開けて入る。結構広い。おそらく15坪以上。さっそくシンパシーを感じたのは、「古くて新しい」たたずまいだからか、安部公房の「笑う月」と目が合ったからか。

 安部公房の近くに、今東光、小島信夫、石川淳、小川国夫、島尾敏雄……。装丁に非常に力が注がれた頃の近代文学がぎっしり並び、詩歌俳句、民俗学、哲学書もずいぶん。さらに、「ライ麦畑でつかまえて」に「久しぶり」、「阿佐ヶ谷日記」に「ここで出会うとは」と心の中で語りかける楽しさよ。

 この品揃えは?

「買い取りが主です。うちのテイストに合ったものをお譲りいただくことが多くて」となかむらさん。こけしや土人形など郷土玩具も置かれているのは、本の買い取り先の蔵書家宅で「これも」と頼まれるからだそう。

紙に触れる喜びを残すのが古本屋の役割だと思う

「店名のマヤルカは、ロシア語で『私の手』。手から手へ本を渡していきたいという思いを込めました」

 実は茨城県の出身。歴史地理学を専攻した筑波大時代に神保町に通ったのが古本との出会い。都内の編集プロダクション勤めも、20代半ばに京都へ越してからの図書館司書職も「短期間です」とはいえ、“本の周辺”に身を置いてきた。オンラインショップ黎明期に「趣味的に」本の通販を始め、2013年に西陣の路地裏で小さな古本屋を開いた。「もうちょっと広いところへ移らはったら」と不動産屋さんに提案されたのは、なかむらさんの一生懸命と鷹揚が同居した人柄のなせる業だ、きっと。今の場所は17年から。

「電子書籍の時代だからこそ、紙に触れる喜びを残すのが古本屋の役割だと思う」といった話を聞いた後、ウィリアム・モリス風の表紙の本数冊を手に、「きれいでしょう?」となかむらさん。ええ、とてもとても。「1997年に出た岩波文庫創刊70周年記念、特装版の詩集です。古書市場に出るたび買い集めてるんです」とおっしゃる。なるほどこれで読むと、「紙に触れる喜び」が10倍になると、私にも分かる。「萩原朔太郎詩集」を買った。

うちの推し本

「フランス料理の手帖」辻静雄著

 著者は、新聞記者から転身、「料理界の東大」こと辻調グループ(調理師学校)を創始したフランス料理研究家。1971~72年の「婦人画報」の連載がまとめられたもの。

「フランス料理の楽しみ方、親しみ方などがつづられたエッセーで、佐野繁次郎の装丁。内容だけでなく、モノとしての魅力があり、うちの店の“芯”を成す本です。常備させ、大切に売りたい。もう何冊も売っています」

(鎌倉書房刊 古本売値2000円)

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