「日読み」たなかみさき著
「日読み」たなかみさき著
人気イラストレーターによる最新作品集。
「日読み」という不思議なタイトルは、日めくりカレンダーのように元日から大みそかまでの365日それぞれの日をワンシーンのイラストにして収めているから。
例えば1月4日には、表紙にも用いられている青いキャミソールを身につけロングヘアを赤く染めた女性が、鼻血を受けとめるためにティッシュを鼻の穴に詰め込んだイラスト。ユーモアがありながらも、焦点の定まらない目で虚空を見つめている表情から女性の戸惑いも伝わってくる。
各作品には、日めくりと同じように「今日のひとこと」が添えられ、このイラストには「日常的なダメージ」という言葉が与えられている。
1月7日は、一転して七草粥に用いられる春の七草で裸体を彩った女性を描いたイラストに「無病息災!春の七草鎧」とコミカルなコメントが添えられる。
いままさにシャツを着ようと袖を通している下着姿の女性と彼女にもたれかかる上半身裸の男性を描いた1月16日のイラストには、セックスの最中の会話の続きのように「やっぱり私には長い髪は似合わないよ」とのフレーズが。
以降、サイズを気にしてまくり上げたシャツを口にくわえてメジャーでお腹回りを計測している女性(2月17日)や、「あなたの居ない空気を吸いに」と彼氏を部屋に残してベランダで一息つく女性(3月6、7日)、くしゃくしゃになったティッシュを片手に鼻水を垂らしている女性には「何で泣いてんのかわかんなくなる季節」という言葉が添えられ(3月30日)、同じ女性が異なる3つの表情をしているイラストに「人生って自分だけが笑えないコメディみたいで耐え難い」(2月20日)など。
イラストに描かれる女性は、同一人物ではなく、ファッションも、髪形もそして顔もそれぞれ違うのだが、イラストや今日のひとことには、著者の日常の断片や、思考のかけら、心の微妙なざわつきなどが描き込まれているように思える。
というのも、ところどころに「私服混乱日記」と称して、外出の際に何を着ていくか、服選びに悩み振り回される日常や、「町に漂うおでんの匂い、それうちからです」といった夕食の献立(2月29日)、そして「ロングヘアから短くなるまでの最近の愉快な髪形ヒストリー」(3月8日)など、作者の等身大の生活が描かれるパートもあるからだ。
「日めくりカレンダーって、めくった後、捨ててしまうのがもったいないな~と思っていました。実際に現実でも、昨日は戻ってこないので、正しく、いさぎよい作りだとも思います」という著者が、「すぐに破れそうで、たよりない日々の積み重なりで形成されている自分自身」の日常をいとおしみながら描いたイラストが、きっと読者の毎日の心の糧になってくれることだろう。そう、日めくりのように。
(トゥーヴァージンズ 3520円)