「火明かり」アーシュラ・K・ル=グウィン作、井上里ほか4人訳

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「火明かり」アーシュラ・K・ル=グウィン作、井上里ほか4人訳

 アーシュラ・K・ル=グウィンの「影との戦い」(原著1968年、邦訳76年)に始まる〈ゲド戦記〉シリーズは、ルイス「ナルニア国物語」、トールキン「指輪物語」と並ぶファンタジー小説の金字塔として世界中に多くの読者を得ている。同シリーズは第6巻「アースシーの風」(原著2001年、邦訳03年)で完結したと思われていたが、作者はシリーズ最後の物語を最晩年に書いていた。ル=グウィンは18年1月に亡くなったが、その半年後に文芸誌「パリ・レヴュー」に発表されたのが今回新たに邦訳された「火明かり」だ。

 第1巻ではアースシーという多島海世界で魔法を修業中の「血気はやる高慢な若者」として登場したゲドだが、この「火明かり」では、年老いて魔法の力を失い、若き日の冒険を思い出しながら、迫り来る死を予感している彼の姿が静謐に描かれている。〈ゲド戦記〉はゲドという少年の心の成長を軸に描かれたものといえるが、最後の物語に至る50年という歳月は作者ル=グウィンにも大きな変化を及ぼした。最初の3部作から第4巻の「帰還」が刊行されるまで16年という長い時間がかかったが、そこにはフェミニズムという大きな波が関係していたことを本書収録の「序文」および「『ゲド戦記』を“生きなおす”」で、ル=グウィン自身が語っている。

 本書には、アースシーの小さな島、オー島のまじない師を描いた未邦訳短編「オドレンの娘」、先に挙げた2つのエッセーと講演のほか、〈ゲド戦記〉にまつわるル=グウィンの文章が収められている。そこにはファンタジーというジャンルが担うべき役割や、ユング心理学を援用しながらゲドが向き合った「影」の問題など、作者がこの作品に託した思いが語られている。

 邦訳された当初に読んだ少年少女も今や「火明かり」のゲドの心境が身に染みる年齢。本書を導きとして〈ゲド戦記〉を“読みなおし”てみては?

 〈狸〉

(岩波書店 990円)

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