【決断するとき】家族を想う寡黙な男が覗いた修道院の非道
TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開中
ヒット作「オッペンハイマー」(2023年)で主演を務めたキリアン・マーフィーが、クレア・キーガンの原作小説に惚れ込んで映画化。アカデミー賞俳優はどんな物語を選んだのかな、と軽い気持ちで鑑賞したら、胸に染みる佳作だった。エミリー・ワトソンは本作で第74回ベルリン国際映画祭助演俳優賞を獲得した。史実をもとにしたストーリーだ。
舞台は1985年、アイルランドの小さな町。小規模な石炭販売を営むビル・ファーロング(キリアン・マーフィー)は、妻のアイリーン(アイリーン・ウォルシュ)と5人の娘たちとともに慎ましく暮らしていた。
クリスマスが近づくある日、石炭を届けに訪れた地元の修道院で驚くべき現実を目撃する。そこに身を置く少女に「ここから出して欲しい」と懇願され、若い女性たちが行き場もなく苦しんでいる現実と向き合うことに。見て見ぬふりをすることが賢明だと理解しながらも、良心の呵責に悩むビル。そんな彼が最後に下す決断とは――。
日の差さない真冬の田舎町。風が容赦なく吹きつけ、裸足の少年が夜陰にまぎれて食べ物をあさっている。主人公のビルは寡黙で多くを語らない。妻のアイリーンは近づくクリスマスの費用に頭を悩ましている。
ビルは若い女性が修道院に無理やり収容される光景を目撃。未婚で妊娠した女性が送り込まれているという噂もある。気にはなるが、家族のために事を荒立ててはならないと判断し、行動に移さない。
だが石炭を納める小屋に女性が閉じ込められている光景を目撃したときから、このまま知らぬふりを続けていいのかとの思いを抱え、物語はダークな雰囲気で進んでいく。
貧しい町では修道院が支配力を発揮し、人々を沈黙させている。修道院とはいえ、その実態は刑務所さながら。女性たちは併設された洗濯所で働かされ、人権無視の環境下に置かれる。それでも町の人々は何も言えない。ビルも同じだ。妻と5人の娘の未来を考えると、貝のように押し黙るしかない。


















