【決断するとき】家族を想う寡黙な男が覗いた修道院の非道

公開日: 更新日:

人間社会のタブーと、人間精神の懊悩を垣間見る問題作

 考えてみると、われわれが住む日本にも、特定の組織や集団が幅をきかせている町が存在する。企業城下町では「〇〇社の悪口を言ったら、ここに住めなくなる」などという言葉を聞く。本作が突きつけた理不尽な光景は観客と無関係ではない。

 非情の巣窟ともいえる修道院はエミリー・ワトソン演じるメアリー院長が絶対的な力をふるっている。そのメアリーがビルを居室に招き、お茶をふるまうシーンは圧巻。言葉は穏やかだが、エミリー・ワトソンの演技が怖い。静けさの中で眼前の男を支配下に追い込んでいく。ベルリンの助演俳優賞を獲得するのも当然だ。筆者は「すごい女優がいるものだ。今の日本にこれほど威圧感に満ちた演技のできる女優がいるだろうか。いるとしたら高市早苗か?」としばし考えてしまった。

 同時に、この状況下に自分がいたら、何ができるだろうかと思案した。キリアン・マーフィーはインタビューで「観客に『自分ならどうするか?』と問いかけたいですか?」と聞かれ、こう答えている。

「自然とそうなると思います。重いテーマほど、映画という形は穏やかに近づける。責めるためではなく、理解し、問い直すための映画であってほしいんです」

 セリフの少ない重厚な演出のうちに人間社会のタブーと、人間精神の懊悩を垣間見ることができる問題作。キリアン・マーフィーの言う通り、「問い直すための映画」なのだ。ちなみに原題は「Small things Like These」。「ほんのささやかなこと」という意味である。(配給:アンプラグド)

(文=森田健司)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    北島三郎(2)2018年に次男が急逝「息子だけど、音楽の、とても良い仲間でもあった」

  2. 2

    中丸雄一「アパ密会」から2年で“冠番組”…禊は済んでも「元のポジション」には戻れないワケ

  3. 3

    伝説の『アメリカ横断ウルトラクイズ』来年復活へ 番組を取り巻く環境の激変で日テレに突きつけられた課題

  4. 4

    甲子園史上最速156キロ横浜・織田翔希にNPBスカウト早くも白旗 「直メジャー」なら契約金5億円も

  5. 5

    不倫問題の西武・源田壮亮に同情が集まる意外なワケ…妻・衛藤美彩の“幸せアピール”に疲れ果てた?

  1. 6

    皇族費増額の彬子女王、ブータン訪問にまた波紋…同行・伊藤穰一氏とエプスタインの“過去”

  2. 7

    バナナマン日村が簡単に復帰できそうにない「もう1つの理由」…レギュラー11本抱える人気者のジレンマ

  3. 8

    「VIVANT」は観光客を呼べる! ロケ地巡りビジネスが大繁盛

  4. 9

    佐藤輝明の「メジャー移籍強行突破」に現実味…“阪神残留説”も「折れるつもりはない」の声

  5. 10

    京都・向日市、府内初の130メートル級、ゆがんだ建設計画に立ち向かう辣腕弁護士