塩田武士さん<1>「キミがなんで残ったか分からん」
大学時代に松本清張や山崎豊子の書を愛読し、社会派作家を目指したという塩田さん。「小説家になるために就職したので、新聞社しか受けていません。新聞記者になる以外は意味がないと思い込んでいました」と振り返る。
ただし、全国紙はことごとく落ちてしまった。最後の1社は神戸新聞社。面接官は学生1人に対し、6、7人いた。
「履歴書に『興味のあること』を書く欄があって、地域スポーツについて、今後の5年を予測したんです。当然、5年間の中身について聞かれると思って準備して臨んだんですが、ある面接官が『キミ、テーマを“今後5年”とした根拠を説明してくれ』と言うんです。そこは適当だったんで、頭が真っ白になり、何も言えなくなりました」
“就職浪人”が頭をよぎる。パニックになった。
「僕があまりに黙っていると、面接官から『キミさあ、今後5年って書いたら、なんか具体的に聞こえると思って書いたんちゃうの?』って指摘されたんです。本当にその通りだったんですよ。『これ面接対策のいやらしいテクニックやないか?』って怒られました。そのときに、“落ちた”と思ったんですよ。もういいやと思って、『おっしゃる通り、そもそも僕、いやらしい人間なんです』と開き直ったら、これがウケて、『あれ?』と思ったときに、面接官同士が『新聞記者はいやらしなかったらでけへんからなあ』って、急にばーっと盛り上がったんです。そこが神戸新聞の人間的な緩さなんですよね。『あれ、この会社、うまくやっていけるかも』と思っていたら、通過の電話がかかってきました」