【西新宿編】今にも朽ちそうな木造長屋は“やすらぎの郷”
最近、銭湯でひとっ風呂浴びてから酒場に繰り出すクセがついた。この日も新宿西口で飲む前に、少し遠いが中野長者橋近くの「羽衣湯」にザブ~ン。サウナも3セット決め、すっかり“ととのって”外に出たら、小道を挟んで隣に味のある酒場を見つけた。今にも朽ちそうな木造長屋の背後に新宿の高層ビル街。あまりにもフォトジェニックだ。西口は後日にして、その店の暖簾をくぐった。
中はカウンターだけで、チェックのシャツにヒョウ柄のスカーフがオシャレな年配の女将が一人で切り盛り。若い頃は相当美人で鳴らしたんだろうなあ。
聞けば商売を始めて40年。その前は別のあるじが寿司屋、さらにその前は天ぷら屋だったそう。となると建物は戦後すぐからか。店を譲り受けた時にリフォームした内装も十分古い。
レバニラ炒めで芋焼酎のお湯割りをやりながら、この町の話を聞く。「昔はすごく賑やかだったのよ」と言われてもピンとこないほど、今は新宿の外れで人通りはない。
「もうやめたいんだけど、常連さんが許してくれなくて」
なるほど、地元民向けに細々と……か。ならば迷惑をかけないよう、店名は「K」とだけ記しておく。
最初こそ他に客がおらずしんみりとしたが、やがて常連客が1人、2人と集まり始めると、今度は逆にうるさいほど賑やかに。全員顔見知り、というか「こいつとは小学校の同級生でよ!」。
平均年齢は推定70歳オーバー。東京のど真ん中なのにまるで田舎の集会場、いや“やすらぎの郷”か。
「誰かとしゃべんないとボケるから来てんの」という言葉が胸に染みる。だけどなんだろう、この安心感。自分も年をとったらこんなふうに近所の酒場で、夜のひと時を過ごすのも悪くない。ディープって人情の深さのことだっけ? そんなことを思わせる、都会の片隅の“ぽつんと赤提灯”だった。
(いからしひろき)