片岡松十郎さん 祖父が経営していた神戸の老舗で食べたまかないの蒸し寿司

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片岡松十郎さん(歌舞伎俳優・45歳)

 神戸出身で現在も関西在住の上方歌舞伎の片岡松十郎さん。後継者育成のために設立された「松竹 上方歌舞伎塾」1期生になり、15代目片岡仁左衛門に入門した注目株だ。話題になったのは朝ドラ「おちょやん」への出演。ヒロインの杉咲花が奉公するお茶屋の女将(篠原涼子)と駆け落ちしようとする舞台役者を鮮烈に演じ、視聴者をくぎ付けにした。

 母・郁子さんの実家は板前を何人も抱える「明石屋」という日本料理でも知られる老舗の寿司屋を経営していた。子供の頃は「明石屋」の経営者でもあった祖父が大好きだった。

「僕はだれよりもおじいちゃん子でしたね。何でも買ってくれるので、甘えてあれ買ってこれ買ってと、いろんなものを買ってもらいました。大好きなおじいちゃんが小学4年生で亡くなった時は信じられなかったですね。ワーッと号泣したのですが、あの時ほど泣いたことはありません」

 亡くなる前に祖父が愛用していた腕時計を譲り受け、今も大切にしている。重要な局面で必ず身に着ける勝負時計だという。思い出のメシはそんな祖父の店で食べた蒸し寿司。

「中学生の頃は母親が店を手伝うこともあったので、学校帰りによく立ち寄りました。中学時代は弁当でしたが、どんなのだったのか、あまりよく覚えてなくて……。でも、母親が病気で入院した時に、お昼の時間になると校門まで店からにぎり寿司が届いたんです。お昼に教室でにぎり寿司を食べてるから、友達がびっくりしちゃって。友達に会うと、いまだにその話をされますね」

■出来上がると湯気がファーっと上がる

 そして……。

「店に寄った時は一緒に店のまかないを食べていました。寿司飯が余った時は、決まってちらし寿司でした。でも、ちらし寿司が続くうちに飽きてきてしまったんです。毎日のようにごちそうの寿司が食べられて、友達に羨ましがられていたのですが、『嫌い』って言ってました。今思うとぜいたくな話ですよね(笑い)。その代わりに大好きだったのが蒸し寿司です。蒸すので温かいちらし寿司です。手間をかけて作ってくれる感じが好きでしたね。おじいちゃんが亡くなって『明石屋』がなくなってからは、その蒸し寿司を母親が家で作ってくれました。甘く煮たシイタケと穴子を細かく刻んでご飯に混ぜて、そのご飯の上に錦糸卵、エビ、鯛、穴子をちらして蓋をして蒸し器で蒸すのですが、出来上がると湯気がファーッと上がって。蓋を開けるとうすい豆(エンドウ豆)の緑と卵の黄色とエビの赤がとても奇麗で。熱いのをホフホフしながら食べるのがたまらなかったですね。こうして話しているだけで食べたくなります(笑い)。作るのは手間がかかるし、面倒だと思いますが……」

 松十郎さんは両親から厳しく言われて、今でもちゃんと守っていることがある。

「『食べ残すな』と口酸っぱく言われました。だから、出されたものは残さず、奇麗に食べます。さんまやったら、頭も背骨も全部食べます。皿には何も残らないので、世界一奇麗です。『食べ残すな』ってそこまでしろ、という意味とは違いますけど。でも、旦那(仁左衛門)からも褒められます。芸事は褒められませんけど(笑い)」

 ちなみに幼い時は郁子さん似だったとか。

「父親に叱られた時はいつも母親が逃げ場所でした。なんでも許してくれると思っていたんでしょうね」というのだが……。

「母親は本当におちゃめというか、能天気なところがある人で、ものごとをあまり深く考えないタイプ(笑い)。あまり沈んでいるのを見たことがないですね。すぐ調子に乗って、たとえば、両親が芝居を見に来ると楽屋におうかがいして旦那にご挨拶させていただくのですが、あるとき、母親一人で父親がいなかったので、旦那が『お父さんはお元気ですか』とおっしゃった時、『主人は単身赴任中なんで……』と答え、『それは大変ですね』とねぎらっていただいたのにもかかわらず『“亭主元気で留守がいい”って言いますからね!』と、当時はやっていたCMのセリフを明るく言って笑ったことがありました。僕は恥ずかしくて下を向いてしまいました。あの時は参りましたね」

 郁子さんは75歳。まだまだ元気。人気者の松十郎さんの舞台やドラマを楽しみにしている。

(聞き手=浦上優)

片岡松十郎流レシピ

(1)寿司飯に白飯を1割混ぜる
(2)甘辛く煮たシイタケと焼き穴子を刻んでご飯を合わせる
(3)丼にご飯をよそって錦糸卵をのせ、塩、酢で締めた鯛、エビ、焼き穴子、エンドウ豆をちらす
(4)お椀に蓋をして蒸し器に入れ、15分ほど蒸して出来上がり

◆4月3~28日、東京・銀座の歌舞伎座で行われる四月大歌舞伎第3部「桜姫東文章」公演に坊主の入山役で出演。

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