「コロナ被害相談村」実行委員が訴えるこれからの雇用不安

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棗一郎(弁護士/「コロナ被害相談村」実行委員)

「400万人を超える雇用をつくり出した」――。安倍前首相は昨夏の辞任表明でこう胸を張ったが、そのうち300万人以上は不安定な非正規雇用だった。コロナ禍が直撃し、後を継いだ菅政権でも格差と貧困は拡大するばかりだ。厚労省の調査では、昨年1月からの1年間で8万人近くが解雇されたというが、「実態はそんなものではない」と話すのは、弁護士で年末年始の「コロナ被害相談村」実行委員を務めたこ棗一郎氏だ。労働問題のプロはコロナ禍の雇用不安を訴えている。

*インタビューは【動画】でもご覧いただけます。

 ◇  ◇  ◇

 ――相談村(昨年12月29~30日、今年1月2日)は東京・新宿の大久保公園で実施されました。どういうきっかけだったのですか。

 昨年12月19日、ある支援団体が東京・日比谷公園でコロナ禍の生活困窮者への屋外相談会を実施しました。現場を見に行くと、午前中は相談者がポツリポツリといった具合でしたが、昼のニュースで相談会が報じられると、午後3時ごろから大勢の相談者がやって来て。それを見て「やっぱり困っている人はたくさんいるんだ」と実感し、相談村の準備を始めたのです。厚労省はコロナ禍による雇い止めが累計8.4万人(今月1日時点)と発表しましたが、これは役所に相談があった件数でしょう。非正規を中心に「この世の中じゃ仕方ない」と相談を諦める人が少なくないのです。

 ――どういう立場の人が相談に来たのでしょう。

 私はリーマン・ショック直後の2008年の年末から年始に開設した「年越し派遣村」の事務局長を務めました。当時の相談者は男性がメインでした。相談村は3日間で350人以上が来ました。今回は女性の相談者の比率が高かった。シングルマザーと独身の方ですね。外国人の方もいました。

 ――金融危機のリーマン・ショックとコロナ禍では影響が全く違いますね。

 リーマン・ショックは輸出産業が主に打撃を受けました。なかでも製造業の派遣現場には男性が多い。今回打撃を受けたのは、宿泊、飲食、生活関連サービス、娯楽の4業種。これら業種の非正規雇用は女性が多い傾向にあるようです。外国人については、いわゆる入管法改正が18年に強行され、事実上、移民は解禁された形になっています。コロナ禍以前に来日した多くの技能実習生が派遣労働者で、やはり真っ先に解雇されてしまったということでしょう。

■所持金ゼロ「食べ物がない」という相談も

 ――どのような相談が多いのですか。

 私たちは労働事件専門の弁護士ですから、もちろん労働相談も受け付けました。ただ、多くはそれどころではなかった。「給料が未払い」「休業補償をしてくれない」といった相談よりも、「住む場所がない」「明日の食費がない」「もう食べるものがない」という切実な内容でした。相談者の所持金はおおむね数千~数万円。ゼロ円という人もいました。

 ――そうした訴えにどう対処したのですか。

 東京都の「TOKYOチャレンジネット」という支援センターが、一時的な宿泊施設としてホテルを用意しています。そこに入れるように手続きを助けたり、カンパで集めた小口資金を提供したり。生活保護申請につなぐことができた人も40~50人いました。

 ――コロナ禍での相談村開設はこれまで以上のご苦労もあったのでは?

 相談村でクラスターが発生したら目も当てられませんから、医師に常駐してもらって、医療班のテントを設営しました。相談会を実施しても「女性が来ない」という声がもともとありました。人目を気にしたり、メディアに囲まれるのが嫌だったり、ということが原因のようです。「かなり工夫をしないと来てくれない」との指摘があったので、プライバシーを保護できる専用ブースをつくりました。そういった配慮が伝わったことも、女性の相談者が増えた理由のひとつだったかもしれません。それでも、埋もれている人はまだたくさんいるでしょう。受付で相談票にデータを記入する際、相手に連絡先の記入をお願いしたのですが、半分くらいがなかった。携帯を持っていないか、止められているということ。私たちの活動を知る手がかりはテレビかSNSだと思っていたのですが、SNSすら見られないという人が多いのです。どうやって知りえたかというと、「口づて」や、私たちが配った「宣伝ビラ」です。相談村を継続させていればもっと情報が広がり、相談者はさらに膨れ上がったかもしれません。

行政が直接雇用で支援拡大を

 ――政府の支援策をどう評価していますか。

 昨年平均の完全失業率は2.8%。前年より0.4ポイント上昇しましたが、意外と持ちこたえている印象です。雇用調整助成金(雇調金)や中小企業への無利子無担保融資が一定の効果を上げたのでしょう。倒産件数もそこまで多くはなかったのですが、年末にかけて4業種を中心に倒産件数が跳ね上がってしまった。年度末の非正規労働者の雇用期間切り替え時期を控えていますから、まだまだ支援策の継続は必要です。

 ――雇調金の特例措置は、緊急事態宣言が解除された月の翌月末までとされています。

 年度末を過ぎてから、より厳しい状況になることが予想されますから、特例は少なくとも5~6月までは継続すべきでしょう。雇調金の財源である雇用保険はほとんど枯渇していますから、新たな財源が必要になります。政府は今年度の第3次補正予算に「Go To キャンペーン」の追加費用を1兆円超計上しましたが、今はそんな段階ではない。雇調金の財源に充てるべきでしょう。もっと言えば、ミサイル防衛のイージス・システムに数千億円かけている状況ではないですよね。言い方は慎重でなければいけませんが、今回は未知のウイルスとの「戦争」です。そんな時に防衛費を積み増している場合ではないでしょう。新型コロナとの戦いに予算を投入すべきというのは、単純な話だと思いますね。

 ――文字通りの「不要不急」ですね。

 雇調金などの支援体制は重要ではありますけど、ある意味、一時しのぎでしかありません。本来は定職に就いてもらうのが最善。ですが、一度職を失えば、なかなか仕事は見つからない。特に中高年や女性には厳しい現状があります。ですから、国や自治体がつくるべきだと思います。あらゆる公共事業の求人は人材派遣会社などに依頼せずに直接雇用すればいい。日本では戦後、失業者救済のために「失業対策事業」を実施した経験があります。職に就けなければ、国民が持続的に生活を維持することは困難です。公共事業はそれこそ、建設関係から清掃業、テレホンオペレーターなど、あらゆる職種がそろっている。求職者と仕事を結びつける工夫を行政が担うべきでしょう。

 ――それこそが非常時に必要な「公助」ですね。菅首相は「まずは、自分でできることは自分でやってみる」と、相変わらず「自助」を求めています。

 相談村には「自助」ができない人が多く来ていました。「自分でなんとかしろ」と言われても、できないから頼ってくるのです。私たちがやったことは、「共助」。でも、「共助」も、一時しのぎなんです。私たちにできるのは、臨時宿泊所や生活保護の受給につなぐ、といったことだけです。人と職をつなぐとか、支援策に予算をつけるといった効果的な手だてをするのは「公助」です。助けを最も必要とする人は「自助、共助、公助」の順番ではなく、全てが必要なのです。全部一緒に投入しないと、生活を立て直すことはできません。それが、憲法が定める「生存権の保障」ということだと、私は思います。

(聞き手=小幡元太/日刊ゲンダイ)

▽なつめ・いちろう 1961年、長崎県生まれ。中大法学部卒業後、97年に弁護士登録。2008年の「年越し派遣村」の実行委員会事務局長を務めたほか、日本マクドナルド店長残業代請求事件なども担当。現在は日本労働弁護団常任幹事。

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