「国民一律の給付金再支給を」国会で訴えた大西連氏に聞く

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大西連(認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」理事長)

 新型コロナウイルスの感染拡大で厳しい状況が続く日本経済。東京商工リサーチの発表によると、新型コロナ関連の企業倒産件数は全国で1000件に達し、失業者は約8万5000人にも上る。とりわけ、大きな影響を受けているのが中小企業や非正規労働者だ。1月27日の参院予算委に参考人として出席した認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」の大西連理事長に話を聞いた。

 ◇  ◇  ◇

 ――参院予算委では、新型コロナの影響で食料配布や相談会への参加者が増えていると説明されていました。あらためて、具体的にはどのような状況なのでしょうか。

 私たちは生活困窮者の支援をしている団体で、住まいのない人がアパートを借りる際の保証人や緊急連絡先を引き受けるなど、年間4000件ほどの相談を受けていますが、新型コロナの影響が出始めたのは昨年3月ぐらいからです。最初は大規模イベントの中止などに伴う失業者の方の相談が寄せられ、緊急事態宣言が発令された4月から相談件数が例年の1.5倍から2倍近くに増えました。私たちは今、毎週土曜日に都庁の下で食料配布と相談会を行っているのですが、訪れる参加者が例年60~80人だったのが120~150人と増え続け、昨年12月ぐらいから180人となり、年明けからは連日200人超えの状態。6日は280人となり、先が読めません。

 ――相談者が困っていることは何でしょうか。

 相談される方々のほとんどが「仕事がしたいけれども仕事がない」「仕事が見つからずに困っている」と言います。自分は健康なので、仕事さえあれば何とかなるという方が多いですね。よく言えば真面目なのですが、これが実はやっかいなのです。

 ――やっかいとは。

 早く仕事がしたいと焦るあまり、短期的な目線で生活をつなごうと考えてしまうのです。それで労働条件のあまりよくない単発の日雇いや、不安定な仕事に応募してしまう。しかし、得られる収入が低いために貯金を取り崩さざるを得ないという悪いスパイラルに陥る。そのうちに家賃を滞納したり、借金するようになったりして生活再建に至りにくくなってしまうのです。

 ――どう考えればいいのでしょう。

 まずは公的支援制度などを利用して生活基盤を整えることです。例えば月給制の仕事に応募するためには、就職してから自分の口座にお金が振り込まれるまでの生活費が必要でしょう。とにかく仕事がしたいと焦るのではなく、再就職のために何が必要なのかと公的支援の利用も視野に冷静に考えるべきです。

 ――新型コロナの影響を最も受けている層はどこでしょうか。

 圧倒的に非正規です。正社員だと、雇用調整助成金を使えたり、休業支援系の補償を受けられたりしますが、非正規は休業支援制度が使いにくい上、そもそも事業者が制度活用に後ろ向きです。

政府のセーフティーネットへの基本姿勢はトリクルダウン的

 ――参院予算委では定額給付金の支給を訴えていました。給付金が最も効果的と考える理由は何でしょうか。

 まずは現金が直接、早く確実に一人ひとりの手元に届くということです。仮に低所得者層に絞って給付しようとなった場合、どこを基準にするのか。チェックを誰がするのか。どういうプロセスを踏むのかという問題があり、手続きが煩雑になるほど時間がかかります。昨年の一律支給でさえ、2カ月半ぐらいかかっていたことを考えると、要件のチェックをしなくていいというのが圧倒的な強みです。貯金に回るだけといった批判的な見方もありますが、一方で、お米が買えました、という意見もあるわけです。必要としている人に届けるべき、というのは理想ですが、今は出来る仕組みがありません。要件を厳しくしたり、申請書類を多くしたりすると返って必要な人に届かなくなってしまうのです。

 ――政府はなぜ、定額給付金の再支給に後ろ向きなのでしょう。

 セーフティーネットに対する基本姿勢がトリクルダウン的な発想なのでしょう。経済活動が優先で、それによって雇用が守られる。雇用が守られれば個人が守られるという三段階論法です。だから「GoTo」キャンペーンにこだわる。雇用調整助成金や持続化給付金も事業者を支援する制度で、事業者を守ることで、そこで働く人の雇用を維持し、結果的に個人を守るという考え方です。しかし、これは景気のいい状態が大前提で、雇用が右肩上がりであり続ける限りは失業期間も短期で済むため、集中的な支援で済むでしょう。3カ月間の限定であっても次の雇用がすぐに見つかるわけです。ところが、今のように失業期間が中長期に及ぶ状況下では機能しません。一方、まずは個人に現金を支給するという定額給付金の考え方はボトムアップ。どちらの考えを取るべきなのかは一目瞭然でしょう。

 ――菅首相は参院予算委で「最終的には生活保護」と答弁し、国民から批判の声が出ました。

 政府の仕事というのは生活保護制度の手前の仕組みを充実させることです。もちろん、生活保護制度があるので、どんどん使ってくださいというのが菅政権のスタンスであれば結構ですが、実際はそうではない。失業給付や求職者支援制度といったファーストネットがあり、セカンドネットとして困窮者支援の貸し付けや家賃補助があるのですが、今はその部分が手薄であるがゆえに生活保護を申請せざるを得ない人がたくさんいるわけです。ミルフィーユのように何層もセーフティーネットがあって、その上での生活保護というのであればともかく、今、手薄の部分をどうするのかということを考えるのが政府の役割ではないでしょうか。

■長引くコロナ禍に政府は打つ手がない

 ――菅首相は「自助、共助、公助」をスローガンに掲げています。

 歴代の政府がセーフティーネットの拡充に後ろ向きだったのは、財政の影響と、セーフティーネットを手厚くすると怠けて働かなくなるのではという懸念、経済成長優先という3つの視点からでした。良し悪しは別として理論としては成り立つのですが、菅首相のスローガンは理論ではなく、目指すべき社会の在り方として、国の支援は最後だ――という思想的な考え方です。今の政治家が若かった頃は、長く経済成長が続いていたため、雇用さえ何とかなればセーフティーネットの機能はあまり必要ないという考え方が一般的だったのでしょう。真面目に働いていれば老後の生活も安心で、マイホームも買えるし、子育てもできる。しかし、今は非正規社員の割合が拡大し、正社員でさえ老後が安心という人が少なくなっている時代です。そういう状況下でかつてのような社会の在り方を目指すというのは疑問です。

 ――新型コロナの感染拡大が収まらず、このまま緊急事態宣言の状態が続くとどうなると思いますか。

 正直いってこれほど続くとは思っていませんでしたが、政府も打つ手がないでしょう。生活保護を拡大するのか。巨額の財政支出をするのか。休業補償をいつまで続けるのか。雇用調整助成金で支えている雇用もこの先、どうなるのか分かりません。悔やむべくは昨春の定額給付金支給のタイミングを生かせなかったこと。あの時、中長期の失業対策にも着手するべきでしたが、政府としては失業が続くというのは認めにくいのでしょう。景況感を考えた時、中長期の失業対策を前提に予算を組み始めるとマイナスの影響が出てくる恐れがあるからです。景気を押し上げるという姿勢の方が市場の受けはいいと思うのですが、そうしている間に時間だけが過ぎて、低所得や中間層の貯金がますます崩れていくことになるのではないかと懸念しています。

(聞き手=遠山嘉之/日刊ゲンダイ)

▽大西連(おおにし・れん)1987年、東京生まれ。2010年頃より、生活困窮者支援に携わる。著書に「絶望しないための貧困学」(ポプラ新書)。

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