津野田興一
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津野田興一都立立川高校教諭

1965年生まれ。東京都立大学大学院人文科学研究科史学専攻修了。現在、東京都立立川高校で世界史を教える。著書に「世界史読書案内」(岩波ジュニア新書)、「やりなおし高校世界史―考えるための入試問題8問」(ちくま新書)、「第2版 ポイントマスター世界史Bの焦点」(山川出版社)など。

もう一つの合衆国メキシコは反米意識と白人×先住民が形作った

公開日: 更新日:

 メキシコ合衆国の歴史を、アメリカ合衆国との関係の中から考える第2回は、メキシコ革命が中心です。

■「パンと棍棒」

 1876年に武力で実権を掌握し、大統領となったメスティーソ(白人と先住民の混血)出身のディアス(①)は、以後35年間にもおよぶ長期政権を樹立します。ディアスは、ルラーレスと呼ばれる広域治安警察部隊を積極的に利用し、反対派の弾圧をはかります。その統治は「パンと棍棒」と称され、利権や恩典を与えて懐柔する「パン」の政策に対し、それを受け取らないものに対しては「棍棒」で徹底的に排除したのでした。その結果、ディアスの一族や知己が優遇される縁故主義がはびこります。

 また、ディアスは外国資本を積極的に導入して近代化を進めたため、鉄道建設や鉱山開発が急速に進みました。なお、外国資本の4割弱がアメリカ合衆国からもたらされていることから、メキシコに対するアメリカの影響力がさらに増強されたことが分かるでしょう(②)。そして、学校教育が普及し始め、軽工業の発展に伴う経済的繁栄により都市の人口が増えたのもこの時代の特徴でした。

■光と影

 しかし、近代化の進展はメキシコシティーなど一部の都市に限定されていました。農村部に目を向けると、大地主が貧しい農民を小作農や農業労働者として雇い、負債によってがんじがらめにしていたのです。1910年の国勢調査によると、メキシコの可耕地の97%がわずか835の家族の所有となっていました。いびつな経済発展が進んでいたと言えるでしょう。

 そして言論は厳しく統制され、選挙のたびにディアスが再選され続けました。

■メキシコ革命

 1910年11月20日、大地主の一族で自由主義者のマデロが、亡命先のアメリカ合衆国で改革プランを発表し、大統領選挙の不正を糾弾すると、徐々に反政府運動が全国に広がります。メキシコ革命の始まりです。蓄積されたさまざまな階層の不満が噴出し、翌11年にディアスは大統領を辞任して亡命しました。

 ここに長期独裁政権は打倒されたのですが、自由主義にもとづいて政治の民主化を優先させようとしたマデロに対し、農民への土地の分配を求めるサパタ(③の中央最上部)やビリャら農民派との内戦が勃発します。

 さらに13年には、保守派の軍人であるウエルタ将軍がマデロを暗殺し、ディアス時代の復活を目指しますが、自由主義勢力とサパタやビリャらの勢力によって打倒されます。そこで開かれたのが武将会議(開催都市の名称からアグアスカリエンテス会議)でした。

■武将会議

 ウエルタ将軍と戦った兵卒1000人につき1人の武将が参加したこの会議では、農地改革の必要性について合意をみました。しかし、その後農民派と穏健改革派との内戦が再開し、最終的には穏健改革派のカランサが政権を掌握します。それと前後して、サパタとビリャは暗殺されてしまいました。

 この間、かつてディアス政権を支え続けてきたアメリカ合衆国は、ウィルソン大統領が1914年4月に、海兵隊をメキシコ湾西岸に位置するベラクルスに派遣して占領します。半年以上におよぶメキシコへの内政干渉は、民衆の間に反米ナショナリズムを引き起こしました。

 一般にウィルソン大統領は、「十四カ条の平和原則」で国際連盟の設立を提唱したように、日本では平和外交を実施した人物と考えられています。しかし、ラテンアメリカ地域に対しては、直接軍隊を派遣することも辞さない、強硬外交を推進したタカ派の側面を持っていました。

■1917年憲法

 このメキシコ革命の中、カランサのもとで制定された1917年憲法は、20~30代の若手や高等教育を受けた専門職の人々が参加してつくられたため、先進的な内容を含むものとなりました。憲法制定議会では次の3点が強調されたといいます。①アメリカなど外国人の経済活動を制限する民族主義②カトリック教会と聖職者の権限を制限する反教権主義③農地改革と労働者の保護をうたった社会改革に取り組もうとする情熱、これらが根底に流れていました。

 メキシコの現行憲法である1917年憲法は、大統領権限を強化したうえで、第27条では「土地と水の所有は根源的に国家に属する」と、外国勢力や教会の干渉を排除しました。さらに、第123条では労働基本権と社会保障を明記して、「世界で最も進歩的な憲法」と呼ばれました。

■インディヘニスモ

「古代文明を開化させた先住民」の血を受け継ぐメスティーソの中に自分たちのルーツを見いだそうとすることで、もともと希薄であったメキシコ人意識というものが、メキシコ革命を通じて形成されていきます。「インディヘニスモ」と呼ばれるこの動きは、カルデナス政権時代に急速に進展した農地改革(④)や、外国資本の国有化という形でもあらわれました。

 1937年には鉄道が、38年には石油産業が国有化されたのです。これはメキシコ産石油の30%を採掘していたアメリカのスタンダード石油系企業(現在のシェブロン)の資産が接収されることを意味しています。アメリカのフランクリン=ローズヴェルト政権との緊張が高まりましたが、世界恐慌やヨーロッパでの軍事的緊張が強まる中、ローズヴェルトが善隣外交をおこなっていたことから、石油産業の国有化は資産補償の実施を条件に認められました。

■壁画運動

 いっぽう、公教育省大臣となったバスコンセロスは、メスティーソ文化にメキシコのアイデンティティーを置き、1920年代から30年代にかけて壁画運動を推進します。

 アステカ王国などの古代文明を築いた先住民の姿や、豊かな自然、そしてヨーロッパによる征服など自国の歴史を、公共建造物の壁に多くの画家が作品を残してゆきました(③)。多くの壁画が描かれ、先住民文化の見直しがなされたことから、「メキシコ・ルネサンス」とも呼ばれるこの運動で活躍したのは、リベラ、シケイロス、オロスコといった画家たちでした。その作品は過去と現在と未来の「メキシコ人」の姿を示し続けているのです。

■もっと知りたいあなたへ

世界史リブレット122 メキシコ革命
国本伊代著(山川出版社、2008年) 802円(税込み)

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