不動産会社3代目の「DX業務効率化」奮闘記 2022年に職場はこう変わる!

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 人間が長生きするなら会社も長生きするべきだ。だが、経年劣化は企業の宿命。生き残るには、はやりの「DX」(デジタルトランスフォーメーション)が必要だ。要はITによる業務効率化である。「うちみたいな小さな会社に必要?」と悩んでいる経営者や企業幹部も多いはずだが、鳥取県米子市の不動産業「ウチダレック」の成功に至るまでの紆余曲折を内田光治専務から聞いてみよう。

  ◇   ◇   ◇

 超アナログな実家の会社を見事DXした注目の経営者。当初は父親である社長から「おまえは宇宙人か」と困惑されたそうだが、一体どんな方法でDXを成功させたのか。

 現在35歳の内田さんは2016年に29歳で東京のIT企業を退職。地元に戻り、実家の不動産会社「ウチダレック」(資本金2000万円)に3代目として入社した。

「仕事が人にひも付いている」

 しかし、目の当たりにしたのは、昔ながらの古い仕事のやり方。特に内田さんが“3大非効率”として挙げるのが、「紙が多い」「残業が多い」「仕事が人にひも付いている」だった。

「例えば、入居申込書は、店頭でお客さまに手書きしてもらい、それを事務員がパソコンに打ち込み、さらに印刷して押印してもらい、ファイルで保存。他にも家財保険の契約書など、不動産会社には紙が多く、それを整理するだけで一苦労でした」

「残業が多い」のは引っ越しシーズンの2~3月。担当者は毎晩深夜まで居残り、休日出勤もざらだった。この理由は後述する。さらに「仕事が人にひも付いている」というのは--。

「入居中の問い合わせについては〇〇さん、経理は△△さんと、特定の社員がずっと同じ仕事に携わっているので、その人に聞かないと誰も実態が分からないという状況でした。それでは何かあった時に迅速に対応できません」

 こうした仕事ぶりを目の当たりにし、「逆・浦島太郎の感覚」と思った内田さん。DXを決意する。だが、やるべきことは山積み。社長や社員の理解も簡単には得られなさそう。悩んだ末に決めたのが、「手を付けやすいところから始めよう」ということだった。

「まずはスケジュール管理の部分でクラウドツール(編集・ネット上の仮想システムを利用する)を導入しました。これで誰でも社員の行動予定がPC上で把握できるようにしました。最初は面倒がって入力してくれない人もいましたが、思い切ってホワイトボードを撤去したら、しぶしぶ書いてくれるように。強引にでも元のやり方をやめてしまうのは有効だと思いました」

 次にメスを入れたのが「入居者の問い合わせの対応」だ。

「水漏れした、鍵が開かないなどのトラブル対応です。それまでは電話を受けて、〈問い合わせ受付票〉という紙に書いてファイリングしていましたが、進捗状況が把握しづらい。案の定、『今日は修理に来る約束なのに来ない』と、クレーム対応に対するクレーム電話が来る始末でした」

 この問題については、電話対応をコールセンターに外注。データベースに対応内容を入力してもらうことで、迅速に進捗状況を把握できるようにした。最終的には直接修理業者の手配や修理代請求までやってもらうようになり、それまで4人でやっていた「問い合わせ対応」が2人で済むようになった。

「週休3日」で給与アップも

 そうしたデジタルによる効率化を少しずつ、トータル3年ほどかけて実践していった結果--「会社全体で半分以上の人員削減になりました。もちろん、十分仕事は回っていますし、閑散期は週休3日を実現。それでいて営業利益は2倍になり、社員の給料も上がりました」。

 まさにDXのチカラ恐るべしだが、最初は反発もあったという。多くの社員が急な変化に付いてこられず自主退職。父である社長に改善内容を説明しても、「宇宙人と話しているようだ」と呆れられた。それでも最後までやり通せたのは、その父の理解とバックアップのおかげだという。

「やはり経営者として会社を良くして、お客さまにもっと良い価値を提供したいという思いは共通していました。最後は『思う存分やれ』と背中を押してくれました」

ITは人の仕事を奪うものではない

 DXというと、人の仕事をITが奪うイメージが強いが、「そうではない」と内田さんは言い切る。

「奪うのではなく最適化。無駄な人的リソースを再配置し、より付加価値の高い仕事をしてもらうのがDXの最大の目的です」

 繁忙期の深夜までの残業は、「顧客対応」と「契約書づくり」にかかる時間の膨大さが理由。まず顧客対応は1人につき約2時間。それだと1日最大4人が限界だ。契約書づくりは店の営業が終わってから。1人1時間半はかかるので、当然すべて終わらせるには時計の針はてっぺんを過ぎる。

 この2つの課題を内田さんはどう最適化したのか? 契約書づくりについては、来店時に書いてもらう顧客情報をスマホ・タブレットに一元化。入力してもらった情報を契約書まで“一気通貫”で利用できるようにした。さらに実際の作成作業はDXで手が空いた事務員が担当。つまり営業担当は契約書づくりから自由になったのだ。

 顧客対応については、かかる時間の3分の2を占める「現地案内」を、なんとタクシー会社に委託。これは別の不動産会社のやり方を参考にしたものだが、鍵の開け締めをタクシー運転手にやってもらうことで、営業マンの対応時間を大幅に減らしている。その結果、1日最大4人だった顧客対応数を、7~8人にまで増やすことに成功。当然売り上げも変わってきた。

中小企業ほどDXの効果は高い

 ここまで読んで「意外と簡単」と思ったが、一方で内田さんのようなITに詳しい人がいて、資金的にも豊富じゃなければ実現不可能と疑っている人は多いだろう。最近は、セールスフォースやサイボウズなどDXを支援する会社が多数あり、比較的低価格で業務改善システムを導入できる。しかも、昔はシステムを入れ替えたりしなければならず膨大な費用がかかったが、今はクラウドで何でもできる時代。つまりヤル気の問題なのだ。

「まずは出来る部分から少しずつ。失敗しても元に戻せばいいんです。地方の中小企業ほどDXの効果は高いので、ぜひ挑戦して欲しいですね」

 他にも経理をアウトソーシングした話などのDXにまつわるエピソードは、内田さんの著書「仕事のムダをゼロにする超効率DXのコツ全部教えます」(アスコム)に詳しく書かれてある。

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