立石「もつ焼き宇ち多゛」で聞こえる呪文のような「ハツ若焼きを味噌」「カシラ素焼きで酢」「アブラ少ないとこタレ」

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 10代の頃、なぎら健壱っていう変なフォークシンガーがいるってことはフォーク好きの同級生から聞いて知っていた。

 が、当時は全く興味がなく、アタシにとっては映画「嗚呼!!花の応援団」に出てくる怪優としての認識しかなかった。

 その後、5、6年して日常的に酒を飲むようになり、「東京酒場漂流記」という本を手にした。そこで初めて著者であるなぎら健壱という才人のすごさを思い知ったのである。

 東京下町の個性的で庶民的な酒場を巡るエッセーなのだが、そのなんとも格調の低い文章が楽しくて一気に読んだ覚えがある。で、今回お邪魔した店がこの本で初めて知った店「もつ焼き宇ち多゛」である。アタシが初めて行ったのが今から10年ほど前。だから本を読んでから30年も経って、ということになる。もつ焼きの老舗で安くて死ぬほどうまいと聞いていたのだが、押上から先は遠くてなかなか行けなかったのだ。

 1時間かけて行ったはいいが、臨時休業とか、ネタが売り切れだとかでは目も当てられない。10年ほど前に行こうと思ったのはネットで詳しい情報を入手したからだ。今回久しぶりに行った宇ち多゛は10年前の3倍ほどの行列を作っていた。ざっと50人。こりゃあ参ったなあ。ボヤキながら、しばし黙考。腹も減り喉も渇いた。気温35度。心が折れそうなアタシです。

 が、今日は何としても入るぞと決意し、1時間は並ぶ覚悟をして、小腹を満たすため向かいの立ち食い寿司へ。ここもいい店。なんなら取材も片づけるかと思いきや掲載はNG。ビール小瓶と10貫ほどを腹に収め、いざ行列の最後部へ。結局50分ほど並んで入店し、他の客と肩を寄せ合って狭いベンチテーブルに座ると、後ろから「今日は何にする?」。店のオニイサンから声がかかる。

「梅割り、煮込みとタン生(写真)、シロタレよく焼き、ナンコツ塩で」(すべて250円、焼き物は2本で)。ここでぐずぐずすると他の客からにらまれる。練習通りにスムーズに言えた、と思ったら「タン生に酢は?」「え? 酢? えーっと、あ、ありで」。受けに弱い還暦男。注文の仕方は昔と同じだ。周りから呪文のような言葉が飛び交う。「ハツ若焼きを味噌で」「カシラ素焼きで酢」「アブラ少ないとこタレ」「煮込み白いとこハツモト多め」。初めて来た客はオタオタする。要領がわかり、注文できるようになるには梅割りを50杯くらい飲んでからだろう。

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