「脱・近藤誠理論のがん思考力」大場大著
がんの標準治療に異を唱え、「患者はがんと闘うな」という主張で知られる近藤誠医師。がんの常識を覆す近藤理論に対し、「東京オンコロジークリニック」院長の著者が科学的かつ客観的に真っ向から反論する。
まずは、近藤氏が自説の裏付けにしている医学論文から引用された数字やデータは、すべて恣意的に選ばれた都合の良いものしか登場しないとバッサリ。
都合の悪いものは本来の解釈を曲げて排他的に扱い、情報収集の手法や解釈の仕方に対する「公平さ」が欠如していると指摘する。
たとえば「がんは放置がいちばん」とする近藤氏は、「手術した場合と放置した場合を比較したエビデンスが存在しない。したがって手術による延命効果は示されていない」と主張している。しかし著者は、手術に関しては現実的にそうした比較検証は不可能なため、これまで行われてきた膨大な手術データによって患者の利益は十分に証明されているという。
逆に、近藤氏が放置の妥当性を裏付けるエビデンスとして引用する論文は7人の患者を対象とした症例報告レベルに過ぎない。手術を受けても放置と比較して延命効果がないと結論付けるなら、放置でどれほどの治癒率が見込めるか、手術による客観的データに匹敵するほどの数字を示す必要があると指摘する。
他にも、近藤氏が否定的な抗がん剤の効果や、がん検診の有効性についても検証する。(青灯社 1600円+税)