「老乱」久坂部羊著
主婦の雅美は、裁判所が徘徊中に列車にはねられて死亡した認知症の男性の遺族に賠償金の支払いを命じたという新聞記事を読んで青ざめる。78歳の義父・幸造は一人暮らしで、他人事とは思えないからだ。そんなとき、危惧していたことが起きる。鉄道会社から連絡があり、幸造が線路に立ち入ったというのだ。
認知症の発症を疑う雅美は、検査を受けさせたい。渋る夫の知之を説得して幸造の家を訪ねた雅美は、台所のあちこちに認知症の予兆を感じる。しかし、知之は会話のやりとりから、心配することはないという。一方の幸造は、久しぶりに訪ねてきた息子夫婦が認知症を疑っていることに気づき、不愉快でならない。
医師作家が老い衰えることの現実と家族との関係を描いた認知症小説。(朝日新聞出版 1700円+税)