「ただしくないひと、桜井さん」滝田愛美著
子どもたちから「桜井さん」と呼ばれる大学生の僕は、NPO団体が運営する「ぽかぽかハウス」のボランティアスタッフ。僕の担当は金曜日で、子どもたちの宿題をみたり、将棋の対戦相手をしている。いつもテキトーな返事をするので皆に呆れられているが、結構、秘密も打ち明けられる。中学3年で豊満ボディーの柚希に「痴漢されて気持ちいいねん。桜井さん、私のこと触って?」と迫られたときは困ったけど。
ある日、ハウスに通う中学3年生の太郎の母親が病気で亡くなり、その数日後、父親が淫行で逮捕されるという事件が起こる。被害者は太郎の同級生でもある柚希だった。僕は太郎を誘って静かな公園に向かい、一通の手紙を見せた。(「正義のみかた」)
不倫、自殺、売春などその裏にある切実な痛みを描いた、第13回「女による女のためのR-18文学賞」読者賞受賞作。(新潮社 1500円+税)