サバイバルを描く本特集 (ノンフィクション文庫)
「黒い海」伊澤理江著
人はいろいろな危機に襲われる。それは自然の脅威だったり、人の仕掛けた罠だったりする。そんな危機から見事サバイバルした人たちの体験が、目の前の危機からあなたを救ってくれるかもしれない。
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「黒い海」伊澤理江著
夏至から2日後、カツオ漁に出ていた第58寿和丸は銚子沖の太平洋上にいた。休憩中の豊田は右舷前方に衝撃を受け、船体が右に傾くのを感じた。2度目の衝撃で右傾斜はひどくなり、「沈む」と直感する。甲板上に海水が流入、船はひっくり返り、船員たちは海へ投げ出された。
船員たちは荒海の中、必死で動力つきの作業用レッコボートに泳ぎつく。第58寿和丸は船首を海中に沈め、船底をさらしていた。このまま船が沈んでいけば船とロープでつながれているレッコボートは海に引きずり込まれる。
豊田らは間切り包丁でロープを切ろうとしたが、ロープは鉄のように硬く、歯が立たない。そこへ第6寿和丸から、現場にもうすぐ着くと無線が入った。
2008年、17人の犠牲者を出した海難事故で生還した船員らの闘いを描く。 (講談社 869円)
「この地獄を生きるのだ」小林エリコ著
「この地獄を生きるのだ」小林エリコ著
短大卒業後、漫画の編集をしていたエリコは、安月給で苦しい生活をして心を病み、自殺未遂を起こして精神科病院に入院した。信頼できる主治医に出会ったが、30歳目前で仕事もせずデイケアに通うだけの日々。ひとり暮らしで、実家からの仕送りが途絶えて収入が障害年金だけになる。生活保護を受けているものの、楽しいことは何一つない。カフェインの入った薬を大量に飲んで、救急病院に搬送された。
ちゃんと働きたいと思って、雑誌を発行しているNPO法人に問い合わせると、漫画の単行本の制作の手伝いを依頼される。制作を終えたとき、お酒を飲んだ。お酒は寂しいときに飲むものではなく、仕事を終えてリラックスするときに飲むものだということを忘れていたと気づいた。
心を病んだ女性が再生するまでをつづる。 (筑摩書房 990円)
「失踪願望。」椎名誠著
「失踪願望。」椎名誠著
コロナ禍のさなか、著者は雑魚釣り隊の数人に喜寿の祝いをしてもらうことになり、とめどないバカ飲みをした。3日後、微熱が出て、突然、昏倒し、救急車で搬送された。やはりコロナに感染していたのだ。
意識は戻ったがまだ譫妄状態で、体中に点滴などの医療機器が付いているのに気づく。引っこ抜いたら、拘束バンドで「安静」にされてしまった。ようやく自分でトイレに行けるまでに回復したが、急に動くと危険なので、そのたびに看護師に付き添ってもらう。シャワーも監視付きだ。
入院4日目で体の痛みと熱っぽさが消えた。「おかゆ」を食べて、久しぶりに胃に食物が入ってきた。「ああ、生きていてよかった」と本気で思った。
夜更けに聞こえてくる病院近くの横断歩道の「通りゃんせ」にいらつきながら、なんとか生還した椎名誠の闘病記。
(集英社 770円)
「ガリンペイロ」国分拓著
「ガリンペイロ」国分拓著
雨期の終わりに、2艘の船が町外れの船着き場からアマゾン上流に向けて出航した。乗り込んでいたのはガリンペイロと呼ばれる鉱夫たちだ。彼らが目指すのは闇の金鉱山、行き場のない男たちの吹きだまりである。
黄金は1キロで400万円。黄金の配分は金鉱山の所有者が70%。ガリンペイロは30%で、25キロ(1億円相当)の金塊が出ても600万円にしかならない。ガリンペイロが富を手にする方法はたったひとつ、10キロ以上の金塊が出たらポケットに入れて逃亡することだ。
ガリンペイロの命は安い。300人の鉱夫のうち、死者と行方不明者の割合は1.7%を占める。彼らは黄金や女をめぐって殺し合い、殺した者はその理由を忘れ、殺された者は忘れられる。
ブラジルの最底辺を鮮やかに切り取る異形の記録。 (新潮社 880円)



















