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井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

余波舎/NAGORO BOOKS(京都・西陣)「西陣ほんやら洞」だった場所に2024年オープン

公開日: 更新日:

 細い道が碁盤の目状に交差する京都・西陣へ。ゆらゆらと歩いて着いたのは、1階がイタリアンレストランの町家改造建物。階段を上がり、「わっ」と心の声をあげた。素晴らしい風合いの本屋空間が広がっていたからだ。

「17坪ほどですが、天井が高いので、実寸より広く感じていただけるようです」と、店主の涌上昌輝さん。

 チェーンの書店に勤務していたが、独立し、2024年にここ「余波舎」を開業。この物件は、「文化的なことに理解があるオーナー」だったことが決め手になった──と聞きつつ、ふと吹き抜けの壁に目をやれば「ほんやら洞」の看板が。えっ? 70年代から出町にあった、カウンターカルチャーの発信基地的なあの喫茶店と関係あるの? と、私が思ったことを察した涌上さん。「90年代の出町のほんやら洞経営者が、2000年、ここを買って『西陣ほんやら洞』を。僕が出合った時、2階が空いていたんです」

 余波舎のオープン記念に、そのオーナーと、作家・黒川創さんが対談をした。「これに収録されています」と、涌上さんが「生きる場所をどうつくるか」を手にするや否や「買います」と私。

ありそうでなかった選書の妙

 大きな平台と壁一面の本棚に、推定2000冊。人文、アート、ものづくり系ジャンルが多いのは、「自分の関心領域を軸に、無理なく続けられる範囲で選書しているから」ってさすが。

 平台に食べ物系多し。よく見れば「料理の意味とその手立て」「自炊者になるための26週」「私の保存食ノート」など、食の根本から攻めるタイプが選ばれているもよう。

 根本からといえば、本・本づくり系も同様で、「本が生まれるいちばん側で」は老舗印刷会社の3代目の著書だそうだし、「美しい痕跡」は、人が美しい文字を書く姿への慈しみに満ちたメッセージが込められているとのこと。

「妻の母が香港人なんです。その縁で」と、香港の棚も1本。ガイドばかりか、歴史や文化を掘った単行本や現地の雑誌がたっぷり並んでいるのも壮観だ。

 ありそうでなかった選書の妙は、全体の約半分を占める古本でも踏襲されているようだ。私など古本棚から、「語りかける山」「ぼくは猟師になった」「酒菜 居酒屋の料理476」などを手に取りまくりである。

「京都の本屋は左京区に多いんですが、京都中に、ウチみたいに本屋が生まれていけばいいのになーと思っています」

 京都に行くたびに、足を延ばしたい本屋さんが1軒増えた。

◆京都市上京区前之町443 2階/京都市バス・堀川寺ノ内停留所・今出川大宮停留所から徒歩5分/正午~午後7時、月・火曜休み(祝日なら営業)

私の推し本

「ある日 読書と断片」山元伸子著

「著者は、書評紙の編集者を経て、装丁家として活躍する人です。3月から翌年3月まで、日記形式でその日に読んだ本からの引用が挿入されているんですね。誰の本が出てくるのかというと、カフカやベンヤミン、ブランショ、須賀敦子、立原道造、黒田夏子ら。人文・哲学系の難解な本を、日常に取り入れるスタイルというか……。さすが、装丁も素晴らしい。手に取ってみてください」

(ヒロイヨミ社刊 2200円)

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