「ライフ・プロジェクト 7万人の一生からわかったこと」ヘレン・ピアソン著
英国で、1946年の3月のある1週間に生まれたすべての赤ちゃんの生涯を追跡するプロジェクトがスタートした。貧しい家、豊かな家庭、持病があったり健康だったり、それぞれの赤ちゃんは学校でどのような成績を取り、どのような職業に就き、どんな人と結婚し、どのような死を迎えたのか? そうした人生の全側面を記録してきた。その後、1958年、1970年、1991年、2000年にも同様な研究がスタートして、現在英国では5世代7万人余りの人々が科学的調査の対象になっているという。
個人情報を守るため、調査対象者は秘密にされているが、名前を出してよい、と考えている人たちのインタビューを交え、その成果の雰囲気を伝えているのがこの本である。
そこで明らかになったのは、生まれてからの数年がその後の数十年すべてに深く影響しているということ。裕福な家庭や上流の家庭に生まれた子供の方が、学校の成績が良く、高学歴を得て、良い職に就き、スリムな体形を維持し、心身とも健康だ。一方、両親が貧しく狭苦しい家に住む子供たちはそれからずっと苦しい生活を送る傾向にあり、問題行動、病気、学業成績不振を蓄積していく。しかし、貧しい家の赤ちゃんの全員が本当に落後するわけではない。ひどく不利な環境にある子供386人を調べたところ83人が高収入の仕事を持ち、マイホームを買えるくらいの良い暮らしぶりをしていたという。
こうした暮らしを達成した人の親は学校に通い続けることを望んだのに対して、非達成者の親はそのような言葉を口にしたことが11%に過ぎなかったという。
対象となった人間のドラマはもちろん、政治に翻弄される研究方針までを描いている。どんな心構え、生活様式なら成功できるのか、のヒントになる研究だけに興味深い。
(みすず書房 4600円+税)