「二ノ橋 柳亭」神吉拓郎著
ある雑誌に食味評論家の三田が、麻布十番の外れ、二ノ橋の花街の奥にあるという料理屋「柳亭」についての随筆を寄稿。
雑誌の出版後、ハガキや電話で店の詳しい所在を知りたいという読者からの問い合わせが来るが、編集長の小林は筆者の意向を理由に明かさない。若手編集者の村上は、誌面で紹介だけして、場所を教えないという三田の態度に憤り、小林に抗議する。すると、小林から意外な答えが返ってきた。
実は「柳亭」などという店は初めから存在しないというのだ。数日後、村上は小林から当の三田を紹介される。三田は、戦後の混乱期、ある学者が京都の「陶然亭」についてつづった随筆のことを語りだす。(表題作)
94年に亡くなった直木賞作家の作品集。
(光文社 680円+税)