世界の映画祭で13冠を獲得。『事実無根』は父と娘の絆をめぐる謎解きドラマ
『事実無根』5月10日~新宿K’s cinemaほか全国順次公開
思い込みかもしれないが、漢字4文字のタイトルを冠した映画にはどこか堅物なイメージが漂っている。「推定無罪」「関心領域」「真空地帯」など。いま話題の「日本沈没」も4文字だ。4文字タイトルはやや高尚で難解な壁がそびえているような気がしてしまう。
この映画「事実無根」も4文字熟語。文字面の印象から「推定無罪」路線のシリアスな裁判劇なのかなと思って鑑賞したら、大違い。「家族」をテーマにしたコメディー仕立てのヒューマンドラマだ。
本作が初監督の柳裕章による自主制作映画。柳の原案を松下隆一が脚本化した。予算は小規模ながら、「フィンランド・ソラリス映画祭」で最優秀監督賞、「伊オーピ・ソウルプレイス映画祭」で最優秀作品賞など、なんと世界で13もの賞に輝いた。
子供たちや常連客でにぎわう京都・下京区の喫茶店「そのうちcafe」で沙耶という少女(東茉凛)が働き始める。不器用ながらも一生懸命に働く沙耶の姿は店主の星(近藤芳正)や常連客の間で注目の的となっていった。
そんな沙耶の姿を遠くから盗み見る汚れた身なりの男(村田雄浩)がいた。怪しい人物だと警戒した星が事情を聞くと、男はセクハラのでっち上げによって大学教授の地位を奪われ、ホームレスにまで成り下がったと告白。実は沙耶の元義理の父で、自らを大林と名乗る。大林の話に星は同情する。というのも彼も前妻との離婚後、DVのでっち上げによって娘に一度も会うことができない寂しさを抱えているからだ。
そこで沙耶と大林の再会の場を設けようとした結果、星にとって思いがけない事実が明るみになり、嫌が応にもそれぞれの過去や事実ともう一度向き合う必要性に迫られていくのだった……。
血のつながりのない父親ながら娘が元気で働いているのか心配でたまらないホームレス。沙耶という若いスタッフを守る責任をひしひしと感じているカフェの店主。片や近所の子供たちの人気者で、片や罠にはめられて人生ボロボロと、彼らの境遇は対照的といえる。その2人の大人の間に立たされているのが生真面目な女の子という構図だ。