著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

公開日: 更新日:

 京の愛宕山に、滝夜叉と呼ばれる盗賊がいた。平安時代の話である。その女頭目である皐月は、朝廷に反抗した平将門の遺児といわれている。皐月の配下も、将門の遺臣やその子らだ。この滝夜叉をしのぐ反朝廷勢力が、土蜘蛛と鬼。しかし、これらの民が盗賊集団で、世を乱す反朝廷勢力と決めつけているのは朝廷側の論理であり、滝夜叉、土蜘蛛、鬼たちの言い分は異なる。彼らは平等に生きることを求めているだけなのである。しかし京人たちは彼らを蔑んでいる。こういう対立の構図が本書の基本設定だ。

 主人公は越後の豪族の子として生まれた桜暁丸。13歳で身の丈五尺六寸の大男。さらに剣も強い。越後は米どころだが、米の大半は京に送られるので、食えない庶民も多く、その矛盾が桜暁丸を苦しめる。成長するにしたがってこの男が反朝廷勢力と結びつくのは当然だった。というわけで、京人に蔑まれている民と、朝廷軍の戦いが始まっていく。

 朝廷軍を支えるのは源の四天王。四天王のひとり、渡辺綱が途中からフェードアウトするのは救いだが、坂田の金時(幼名は金太郎)は、弱者をやっつける側だったのか。他にも安倍晴明に酒呑童子など、平安のオールキャストが勢ぞろいの感もある。

 今村翔吾は、江戸の火消しの世界を描く「羽州ぼろ鳶組」シリーズですでにお馴染みだが、まさかこういう小説を書くとは思ってもいなかった。うれしい驚きである。

 (角川春樹事務所 1600円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢

  2. 2

    生田絵梨花は中学校まで文京区の公立で学び、東京音大付属に進学 高3で乃木坂46を一時活動休止の背景

  3. 3

    未成年の少女を複数回自宅に呼び出していたSKY-HIの「年内活動辞退」に疑問噴出…「1週間もない」と関係者批判

  4. 4

    2025年ドラマベスト3 「人生の時間」の使い方を問いかけるこの3作

  5. 5

    2025年は邦画の当たり年 主演クラスの俳優が「脇役」に回ることが映画界に活気を与えている

  1. 6

    真木よう子「第2子出産」祝福ムードに水を差す…中島裕翔「熱愛報道」の微妙すぎるタイミング

  2. 7

    M-1新王者「たくろう」がネタにした出身大学が注目度爆上がりのワケ…寛容でユーモラスな学長に著名な卒業生ズラリ

  3. 8

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  4. 9

    高市政権の積極財政は「無責任な放漫財政」過去最大122兆円予算案も長期金利上昇で国債利払い爆増

  5. 10

    農水省「おこめ券」説明会のトンデモ全容 所管外の問い合わせに官僚疲弊、鈴木農相は逃げの一手