著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「花まみれの淑女たち」歌川たいじ著

公開日: 更新日:

 70代、80代の婆さんたちが共同生活しているビルがある。年金や生活保護では公団の家賃も特別養護老人ホームの費用も払えない老人たちが、ババアはババア同士で助け合おうと、一緒に働き、一緒に暮らしているビルだ。彼女たちはビルの3階と4階に暮らしている。2階は使ってないが、いずれ介護が必要になったときの設備をつくる予定。将来をきちんと考えているのだ。自分たちでお金をつくり出し、生きる道を切り開いているたくましいお婆ちゃんたちなのである。

 彼女たちは探偵事務所を開いている。70代、80代の婆さんたちが探偵事務所? と思われるかもしれないが、尾行しても張り込んでも、老婆を疑う人は少なく、必ず風景に溶け込んでしまうから、実は有能な探偵たちだ。なんと盗聴器を仕掛けることも辞さない。

「メカに強くなれなくてどうすんのさ。従前の70代といっしょにすんなっての。あたしら、新たなる時代を切り開くババアだよ」と言い放つのだから、たくましい。

 本書はそのお婆ちゃん軍団が、オレオレ詐欺の集団と戦う話である。それも世の不正を正すという戦いではなく、知り合いの老人が詐欺にひっかかって取られた大金を取り戻す戦いだ。きわめて個人的な戦いである。お婆ちゃん軍団がどうやって戦うのか、という興味が大きいけれど、詐欺集団に勝つことができるのか、全員無事に生還できるのか、息をのんで戦いの結果を待つのである。

(KADOKAWA 1600円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  2. 2

    阪神・佐藤輝明にライバル球団は戦々恐々…甲子園でのGG初受賞にこれだけの価値

  3. 3

    FNS歌謡祭“アイドルフェス化”の是非…FRUITS ZIPPER、CANDY TUNE登場も「特別感」はナゼなくなった?

  4. 4

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  5. 5

    新米売れず、ささやかれる年末の米価暴落…コメ卸最大手トップが異例言及の波紋

  1. 6

    兵庫県・斎藤元彦知事らを待ち受ける検察審の壁…嫌疑不十分で不起訴も「一件落着」にはまだ早い

  2. 7

    カズレーザーは埼玉県立熊谷高校、二階堂ふみは都立八潮高校からそれぞれ同志社と慶応に進学

  3. 8

    日本の刑事裁判では被告人の尊厳が守られていない

  4. 9

    1試合で「勝利」と「セーブ」を同時達成 プロ野球でたった1度きり、永遠に破られない怪記録

  5. 10

    加速する「黒字リストラ」…早期・希望退職6年ぶり高水準、人手不足でも関係なし