著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「対岸の家事」朱野帰子著

公開日: 更新日:

 日本の労働戦士たちは朝早く家を出て、深夜まで帰宅しないから、家で何が起きているのかを知らない。その間、何が起きていて、妻が何と戦っているのかがわからない。それを描いたのが本書だ。家事と育児がいかに大変であるのかが、身に染みて実感できる小説といっていい。

 本書の主人公・詩穂は、悲鳴を上げる寸前にいる。ママ友もいないし、実家とは絶縁しているので頼る相手もいない。深夜遅く帰宅する夫は話を聞いてくれないし、専業主婦は楽でいいねと言われて傷ついたりする。だから時に、ふらふらと団地の屋上にあがったりする。危ない危ない。

 この小説は、詩穂を中心にさまざまな女性たちを描いていくが(中には育休中の男もいたりする)、たとえばワーキングマザーの礼子も大変である。子供が熱を出せば仕事中であっても迎えに行かなければならないし、会社ではいつも肩身の狭い思いをしている。彼女もまたふらふらと屋上にあがったりするから、本当に危ない。

 一緒に暮らす者の理解も必要だが、社会の制度も問題だ。そのしわ寄せを彼女たちは一身に引き受けている。その過酷な現実をこれでもかこれでもかと描いていくので息苦しくなる小説だが、最後まで読むと元気が出てくるのは、必ず解決策はあるという強いひびきがあるからだ。絶妙な人物造形と秀逸な構成もいいが、なによりもその希望が心地よい。

(講談社 1400円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    DeNA三浦監督まさかの退団劇の舞台裏 フロントの現場介入にウンザリ、「よく5年も我慢」の声

  2. 2

    日本ハムが新庄監督の権限剥奪 フロント主導に逆戻りで有原航平・西川遥輝の獲得にも沈黙中

  3. 3

    佳子さま31歳の誕生日直前に飛び出した“婚約報道” 結婚を巡る「葛藤」の中身

  4. 4

    国分太一「人権救済申し立て」“却下”でテレビ復帰は絶望的に…「松岡のちゃんねる」に一縷の望みも険しすぎる今後

  5. 5

    白鵬のつくづくトホホな短慮ぶり 相撲協会は本気で「宮城野部屋再興」を考えていた 

  1. 6

    藤川阪神の日本シリーズ敗戦の内幕 「こんなチームでは勝てませんよ!」会議室で怒声が響いた

  2. 7

    未成年の少女を複数回自宅に呼び出していたSKY-HIの「年内活動辞退」に疑問噴出…「1週間もない」と関係者批判

  3. 8

    清原和博 夜の「ご乱行」3連発(00年~05年)…キャンプ中の夜遊び、女遊び、無断外泊は恒例行事だった

  4. 9

    「嵐」紅白出演ナシ&“解散ライブに暗雲”でもビクともしない「余裕のメンバー」はこの人だ!

  5. 10

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢