著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「死に山」ドニー・アイカー著安原和見訳

公開日: 更新日:

 世界一不気味な遭難事故〔ディアトロフ峠事件の真相〕、という副題のついたノンフィクションである。

 60年経ってなお謎とされてきた1959年のウラル山脈で起きた遭難事故を、アメリカのドキュメンタリー映画作家が調査するかたちで本書は始まっていく。とにかく異様な遭難事故だ。9人の若者が、無残な死にざまで発見されたのだが、どうして彼らが死んだのか、その原因がわからないのだ。氷点下であるのに全員が衣服をろくにつけず、靴をはかず、テントの外でなぜ死んでいたのか。頭蓋骨骨折が3人、女性メンバーの1人は舌を喪失、遺体の着衣からは放射線が検出。熊に襲われたのか、政府の極秘実験の被害となったのか、宇宙人なのか。どんな推理を持ってきてもすべての死を説明できない。

 彼らの旅はトレッキング第3級の資格を得るためのもので、その資格を持てば「スポーツマスター」として人を指導することができる。そのために、服装をはじめ、さまざまな規則を守ってトレッキングしていることを証明するために写真を撮る必要があった。本書にたくさんの写真が収められているのはそのためである。遭難に遭う直前まで、元気に、時には笑顔でトレッキングしている彼らの姿はとてもリアルだ。

 ノンフィクションではあるけれど、ミステリーを読むようにスリリングで、合理的な真相にたどりつくラストは圧巻。

 (河出書房新社 2350円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    松井秀喜氏タジタジ、岡本和真も困惑…長嶋茂雄さん追悼試合のウラで巨人重鎮OBが“異例の要請”

  2. 2

    7代目になってもカネのうまみがない山口組

  3. 3

    巨人・田中将大と“魔改造コーチ”の間に微妙な空気…甘言ささやく桑田二軍監督へ乗り換えていた

  4. 4

    福山雅治のフジ「不適切会合」出席が発覚! “男性有力出演者”疑惑浮上もスルーされ続けていたワケ

  5. 5

    打者にとって藤浪晋太郎ほど嫌な投手はいない。本人はもちろん、ベンチがそう割り切れるか

  1. 6

    文春が報じた中居正広「性暴力」の全貌…守秘義務の情報がなぜこうも都合よく漏れるのか?

  2. 7

    DeNA藤浪晋太郎がマウンド外で大炎上!中日関係者が激怒した“意固地”は筋金入り

  3. 8

    収束不可能な「広陵事件」の大炎上には正直、苛立ちに近い感情さえ覚えます

  4. 9

    横浜・村田監督が3年前のパワハラ騒動を語る「選手が『気にしないで行きましょう』と…」

  5. 10

    吉村府知事肝いり「副首都構想」に陰り…大阪万博“帰宅困難問題”への場当たり対応で露呈した大甘な危機管理