著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ(上・下)」 A・J・フィン著 池田真紀子訳

公開日: 更新日:

 異色のミステリーだ。ニューヨークの高級住宅地に住む語り手のアナは、いつも双眼鏡で近所をのぞきまくっている。引っ越してきた人間がいると、ネットを駆使して調べまわる。引っ越していった人間の現在まで調べたりするのだ。アナは家から一歩も出ない。そうして双眼鏡で近所を一軒一軒のぞき、ネットで調べている。そういう女性が主人公の小説なのである。どうしてそんな日々を送っているのかという理由はある。広場恐怖症なのだ。

 外に出ていくことが出来ない。夫と娘とは生活を別にして、もう10カ月間も部屋の中にいる。ひとりで古い映画を見て、朝からアルコール浸りの日々だ。

 このヒロインがある日、殺人事件を目撃する。ところが誰も、警察すらも、信じてくれない。一日中アルコール漬けになっている人間の言うことなので、信憑性がないと判断されるのである。本人にも、自分は本当に殺人現場を目撃したのだろうかという疑いがあったりする。しかし、誰も信じてくれないのなら、自分で調べるしかない――というわけで、家から一歩も出ない探偵の推理が始まっていく。いやあ、面白い。ラストまで一気読みの快著だ。

 A・J・フィンはこの作品でデビューした作家で、この衝撃的なデビュー作は英米で100万部以上を売り上げ、ジョー・ライト監督、エイミー・アダムス主演で映画化も決定という。公開前にぜひ本書を読まれたい。

(早川書房 各1600円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  2. 2

    阪神・佐藤輝明にライバル球団は戦々恐々…甲子園でのGG初受賞にこれだけの価値

  3. 3

    FNS歌謡祭“アイドルフェス化”の是非…FRUITS ZIPPER、CANDY TUNE登場も「特別感」はナゼなくなった?

  4. 4

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  5. 5

    新米売れず、ささやかれる年末の米価暴落…コメ卸最大手トップが異例言及の波紋

  1. 6

    兵庫県・斎藤元彦知事らを待ち受ける検察審の壁…嫌疑不十分で不起訴も「一件落着」にはまだ早い

  2. 7

    カズレーザーは埼玉県立熊谷高校、二階堂ふみは都立八潮高校からそれぞれ同志社と慶応に進学

  3. 8

    日本の刑事裁判では被告人の尊厳が守られていない

  4. 9

    1試合で「勝利」と「セーブ」を同時達成 プロ野球でたった1度きり、永遠に破られない怪記録

  5. 10

    加速する「黒字リストラ」…早期・希望退職6年ぶり高水準、人手不足でも関係なし