著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「僕は金になる」桂望実著

公開日: 更新日:

 書名の「金」は、「かね」ではなく、「きん」と読む。つまり、将棋の「金」だ。ようするに、賭け将棋で暮らす破天荒な父ちゃんと、ぼくの物語なのである。

 それでは「ぼく」も、賭け将棋の世界で生きる人生を歩むのか、と思うところだが、そうはならない。両親が離婚して、「ぼく」は母ちゃんの元に残されるのである。出ていったのは父ちゃんと姉ちゃんだ。そうやってばらばらになりながらもけっして離れず、折に触れては会い続ける家族の、40年を描く長編である。

「ぼく」は普通の高校生になり、普通の大学生になり、普通のサラリーマンになるが、まともに働かず、ギャンブルにあけくれる父ちゃんの性格は変わらない。将棋の強い姉ちゃんに賭け将棋をやらせて暮らしているのだ。

 姉ちゃんは将棋の天才だが、将棋以外のことは何も出来ない。地味で真面目な母息子と、自由きままな父娘だ。で、何か困ったことがあると、「ぼく」が呼び出される。そういうヘンな家族の風景が絶妙に描かれていくのでいったい彼らはどうなるんだろうと、どんどん引き込まれていく。

 後半の展開を紹介したいところだが、読書の興をそいでしまうのでぐっと我慢。離れていても家族なのだ。性格が違っていても家族なのだ。その真実を、本書は鮮やかに描いている。だから最後には、どっと涙がこみ上げる。いい小説だ。桂望実の傑作だ。 (祥伝社 1500円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • BOOKSのアクセスランキング

  1. 1

    「最後の幕臣 小栗忠順 挫けども、折れず」増田晶文氏 非業の運命をたどった“ラスト・サムライ”の生涯を描いた1冊

  2. 2

    「芝浦屠場千夜一夜」山脇史子氏

  3. 3

    「人手不足」なのに仕事探しに四苦八苦「年金だけじゃ生活できない!『定年バイト』奮戦記」林山翔平著

  4. 4

    「新しい戦中」に突き進んでいかないためにはどうしたらいいのか──「一寸先は闇」五木寛之、佐藤優著

  5. 5

    タイムトラベル専門書店 utouto(板橋・志村坂上)古い門をくぐった先に現れる築110年の蔵を改装した店舗

  1. 6

    失敗にめげずニコニコの精神が成長の原動力に「発達障害の私だからこそ、成功できた」似鳥昭雄著/祥伝社(選者:稲垣えみ子)

  2. 7

    茨木のり子にいわさきちひろ…それぞれの生き方を貫いた女性たちが建てた家「女性が建てた家と間取り」田中厚子、松下希和著

  3. 8

    竹内薫(サイエンス作家)鈴木光司さん、またいつか宇宙と時空の神秘を語り合おう

  4. 9

    状況が変わってきた自転車をめぐる混乱を研究者が解説「『自転車』はどこに向かうのか」疋田智著

  5. 10

    「異境」のフロイト像を描きながら精神分析の歴史をたどっていく「異境のフロイト」上尾真道著

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    佐野勇斗は書道六段で英語も堪能 愛知県立岡崎西高校から明治学院大英文学科へ

  2. 2

    巨人・橋上秀樹監督代行とは何者か…原辰徳氏には干され、阿部監督が心酔した“野村ID野球”の継承者

  3. 3

    ゾンビたばこ羽月隆太郎「共犯者暴露」の大きすぎる波紋…広島・新井監督の進退問題にまで飛び火か

  4. 4

    最重鎮OB廣岡達朗氏が巨人を一刀両断「野村克也の教え子がシーズン終了まで代行なんて冗談じゃない」

  5. 5

    絶好調!巨人・阿部慎之助を支える最強あげまんグラドル小泉麻耶

  1. 6

    バレーSVリーグに現役選手から不満爆発!《ハテナがつく事ばかり》の現状招いた真犯人

  2. 7

    (1)阿部監督の暴行事件は巨人にとって“渡りに船”だったか…異様に早い「解任判断」の裏側

  3. 8

    広島羽月 お立ち台で見せた初々しい“坊主頭”の意外な理由

  4. 9

    (2)阿部監督「長女の手紙」で潮目一変…巨人が“事件矮小化”を手引きしたのか

  5. 10

    (3)巨人の次期監督は誰か…松井秀喜氏、桑田真澄氏より“現実味”帯びる原辰徳氏の4度目登板