「芙蓉の干城」松井今朝子著

公開日: 更新日:

 主人公は、江戸歌舞伎の大作者、3代目桜木治助の孫であり、現在は大学講師を務める桜木治郎。狂言作者の父が総帥だった大劇場・木挽座が、幼い頃からの遊び場だったこともあり、役者や裏方たちからも慕われ信頼されていた。

 あるとき、家で預かっている妻のいとこ・大室澪子にお見合い話が持ち上がり、勝手知ったる木挽座でお見合いの席を設けることになった。

 ところが、お見合い相手の男性が見合い当日ロビーで挨拶していた男・小宮山正憲が、そのとき連れていた女と一緒に惨殺されるという事件が起こった。右翼結社の幹部だった小宮山の死を巡って警察は捜査を始めるが、今度は木挽座の大道具方だった男が何者かに刃物で刺されて死ぬという事件まで勃発。不穏な予感を覚えた治郎は、事件の真相究明に乗り出すのだが……。

 1997年に「東洲しゃらくさし」で小説家デビューした後、「吉原手引草」で第137回直木賞を受賞するなど、実力を評価されている著者の最新作。昭和8年、日中戦争開戦前夜の政情不安な日本を舞台に起こった事件の裏にうごめく、人々の思想や欲望をこまやかに描いている。

(集英社 1650円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    やはり進次郎氏は「防衛相」不適格…レーダー照射めぐる中国との反論合戦に「プロ意識欠如」と識者バッサリ

  2. 2

    長嶋茂雄引退の丸1年後、「日本一有名な10文字」が湘南で誕生した

  3. 3

    契約最終年の阿部巨人に大重圧…至上命令のV奪回は「ミスターのために」、松井秀喜監督誕生が既成事実化

  4. 4

    これぞ維新クオリティー!「定数削減法案」絶望的で党は“錯乱状態”…チンピラ度も増し増し

  5. 5

    ドジャースが村上宗隆獲得へ前のめりか? 大谷翔平が「日本人選手が増えるかも」と意味深発言

  1. 6

    「日中戦争」5割弱が賛成 共同通信世論調査に心底、仰天…タガが外れた国の命運

  2. 7

    レーダー照射問題で中国メディアが公開した音声データ「事前に海自に訓練通知」に広がる波紋

  3. 8

    岡山天音「ひらやすみ」ロス続出!もう1人の人気者《樹木希林さん最後の愛弟子》も大ブレーク

  4. 9

    松岡昌宏も日テレに"反撃"…すでに元TOKIO不在の『ザ!鉄腕!DASH!!』がそれでも番組を打ち切れなかった事情

  5. 10

    巨人が現役ドラフトで獲得「剛腕左腕」松浦慶斗の強みと弱み…他球団編成担当は「魔改造次第」