著者のコラム一覧
カモシダせぶん書店員芸人

1988年、神奈川県生まれ。お笑いコンビ「デンドロビーム」(松竹芸能)のメンバー。日本推理作家協会会員。現在、都内の書店でも働く現役の書店員芸人。著書に「探偵はパシられる」など。

「暗黒の瞬間」エリーザ・ホーフェン著 浅井晶子訳

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「暗黒の瞬間」エリーザ・ホーフェン著 浅井晶子訳

 何か面白い本を見つけたいなと思ったとき、私には3つのパターンがある。1つは働いてる店の売り上げが多い書籍を確認する。2つ目はSNSで話題になっている本をチェックする。そして3つ目はお世話になってる小説家さんから教えてもらう。今回は最近ミステリー作家たちの中でも非常に評判が高かった本作を紹介する。作家にとって他作家は商売敵、それでも褒めてしまうのだから本作は折り紙付きといえよう。

 主人公の女性刑事弁護士エーファは30年の長いキャリアの中でさまざまな事件に遭遇し、表になってない部分で人間の「暗黒の瞬間」を体感することになる。心がどす黒くなるそのトリガーを引き起こすのは事件の関係者でもあり、時にはエーファ自身が引き起こすものもあった。9つの事件を経て、最終的に彼女が取った行動に読者は人間の業というものを考えざるを得ないだろう。

 ミステリーの連作短編集は大体5つか6つほどの話が入ってるものだが、この小説は361ページで9編プラスエピローグとだいぶ詰まっている。では一つ一つが物足りないのかといったら全くそんなことはなく、どれも短いながらもかなり特濃な読後感があった。

 事件自体も最初の短編「正当防衛」では家に入った強盗を射殺した老人の話で闇バイトでの押し入り強盗のニュースを目にする我々日本人にも関心のある出来事を取り扱っているが、逆にいけにえになりたい願望をもつ男と、人を食べてみたい男がネットで出会ってしまったが故に起きた事件「人食い」やウガンダでの戦争犯罪を扱った「少年兵」などセンセーショナルな話もあり、読んでるこちらを飽きさせないバリエーションも著者の腕を感じる。

 またそれぞれの事件の中でエーファが作中の別の事件を回想し、悩んでいく場面は連作短編集として見せ方がとても良い。事件自体が絡み合うのではなく、直面してる主人公の心情が事件と事件をつなげていく。それがこの話の奥行きを深くしているのだ。ミステリーの中でも珍しい読ませ方だと思った。

 読んでいて、心を黒く染めてくる小説だが同時にかなり上質なミステリーでもある。

 海外小説はあまり……という方も一編がかなり短く読みやすいので、この暗黒、体験してもらいたい。 (東京創元社 2530円)


【連載】書店員芸人カモシダせぶんの「いい本入ってますよ!」

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