著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

ひつじ堂ブックス(武蔵小山)古本は村上春樹、伊坂幸太郎が充実 新刊は絵本から文芸まで幅広く

公開日: 更新日:

 武蔵小山駅から続く「パルム商店街」で、スマホのマップが頼りにならなくなり、角の花屋さんで「ここを左折?」と聞く。「そうそう。その先に小さな本屋さん、できてますよ~」とすぐさま教えてくれた。

「ひつじ堂ブックス」。住宅街の路面店だった。

 池波正太郎が交じった店頭の100円均一の箱を見ながら戸を開ける。店主・藤井嘉子さんが、「オープンして1年半。まだ素人感が隠せませんが」と、にこやかに迎えてくれた。

 最初にM・B・ゴフスタイン著、谷川俊太郎訳の「ねむたいひとたち」に目がいったのはなぜだろう。店内は7坪弱で、右手に古本、左手に新刊。合計1500冊ほどがゆったりと並んでいて、あっ、雑貨もある。主に紅茶。「吉祥寺のカレルチャペックさんの。私、すごく好きなので」とのこと。「ほんのきもち」という名のティーバッグを見つけ、「本の気持ち?」なんてたわ言をちょい。

 藤井さんは、新卒で小出版社に入ったが、「暮らしていけないお給料に挫折」。30歳から建築設計事務所に勤務してきた。2級建築士だそう。

「55歳になったとき、『これからどうする』とふと考えたんです。やっぱり本に関わる仕事をと思い……」

大手版元以外に夏葉社、ナナロク社など小出版社に目配りあり

 古本のチェーン店で2年半アルバイト。販売、棚補充、買い取り査定など業務全般を体験。独立への実務的知見となったもよう。

 古本棚へ行く。あっ、藤井さんはハルキストなんだ──と一目で分かるほど、村上春樹がどっさり。

「あと、大衆小説もミステリーも読んできました」

 2番目に多いのが伊坂幸太郎、3番目が北村薫。文庫は作家名の五十音別に並んでいる。ちくま日本文学全集や「江戸時代の文化・風俗・食」関係本がかたまった一角も、イキイキしていると感じた。

 仕入れはどこで?

「お客さんからの買い取りと、ほかの古本屋さんで見つけてくるのと。電車代もったいないから、徒歩30~40分の古本屋さんを回って」

 と聞いて、最初におっしゃった「素人感」とは、一生懸命さ、でもあると拝察。美大出の息子さんも店のロゴを作るなど協力。

 新刊は、絵本、コミックから文芸まで幅広く。大手版元以外に、夏葉社、ナナロク社など小出版社にも目配りあり。私は、藤井さんが薦めてくれた、高円寺の「えほんやるすばんばんするかいしゃ」発行の「なにぬね のばなし」を開いて一目惚れし、即購入した。

◆品川区荏原3-5-23 1階/東急目黒線武蔵小山駅から徒歩8分/℡03.4400.7909/正午~午後7時、火・水曜休み

ウチの推し本

「羊をめぐる冒険」村上春樹著

「実は、店名はこの本から付けました。最初に読んだ村上作品で、私が春樹ファンになるきっかけの一冊なんです。1982年、本屋で平積みになっていて、吸い寄せられるように手に取ったんですね。独自の世界観、不思議さ、淡々としながら情景が立ち上がる文体。軽い感じなのに深い。表紙の絵、佐々木マキさんですよ。装丁も含めて、単行本でぜひ読んでほしいです」

(講談社 古本売値1400円)

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